後悔しない家づくり(5) ー 業者選びの実際

 前回は業者選びについて少し難しいことを書いてしまった。おかげで筆が重くなってだいぶ間が空いてしまったが、あんまり難しく考え過ぎると先へ進めないので気楽にいこう!

 ということで、あれこれ調べてある程度のことを知ると、車や家電のようにシロウトがシロウトなりの知識と見立てでメーカーや商品を適切に選ぶことは、家の場合はかなり難しい、というむしろ当たり前のことに気付く。中にはそうでない人もいて、「ゼッタイ、ぜったい、好きなセ○スイ」とか、「○条工務店命!」と惚れ込んでしまう人もいるが、そういう人はきっとそれで幸せなのでほっとくことにする。

 では、先へ進むにはどうすればよいか。―― まずは予算を決めることだ。私の場合、建売りをたくさん見て回ることで、どれぐらいの家がいくらぐらいで建つのかある程度相場のようなものを知った。そのうえで財布と相談して予算を決めた。

 次に、建てたい家の条件や希望について、家族で相談してなるべく具体的に箇条書きなどの形でまとめる。ここまで準備できたら、いよいよ次に企画コンペを実施する。と言うとまたまた難しく聞こえるかもしれないが、要は業者に当方の予算と条件や希望を伝え、あとは業者の方からプランを提案してもらう。このときに業者は1社でなく最低でも3社以上から提案をもらって、その中から一番気に入ったプランを提出した業者を選ぶことだ。こうすれば同一金額で、各社が特色ある提案をしてくるので比較しやすい。私の場合、大手と中堅、それに地場の設計事務所のそれぞれ1社から提案をもらった。

 プランの作成を依頼すると、3社に依頼していると言っているのに(そう言っているからこそ)、そのときから各社の猛烈な攻勢が始まる。

 大手ハウスメーカーの場合、モデルハウスの案内はもちろん、工場見学会に弁当・手土産付きで連れていってくれたり、お楽しみ抽選会で雅恵は1等の20万円相当のお洒落なカップボードを当てて、もう契約したような気になって舞い上がったりした。当方の希望を詳しく聞き取ってくれて、現物や模型を見ながら丁寧に説明してくれたりして、まさに至れりつくせりだった。

 ところが、実際に提案書が出来上がってくると急に夢から覚める。何かが違う気がした。プランに意欲が感じられないのだ。正直少し腹が立った。どうしてこうなってしまうのか。この原因を私なりに次のように分析した。 

 大手ハウスメーカーは割高とよく言われるが、モデルハウスを含めた広告宣伝費や人件費、研究開発費などが中小より余分にかかっていて、結果として1棟3,000万円からが相場という話を聞いたことがある。私の予算はこれよりかなり低かった。結局、出てきた提案書は、「このご予算ではそれなりのものしか出来ません」ということを意味していた。また、大手の場合、元々工場生産の規格品つまりプレハブなので、自由設計とは言ってもある程度型にはまったものしか出来ないということだと思う。

提案書として間取図と見積書をもらう(一部画像処理あり)。
提案書として間取図と見積書をもらう(一部画像処理あり)。

 そこへいくと地場の設計事務所は企画力が売りなので、夢のあるときめくような提案をしてくれた。頼んでもないのに寝室の屋根天井にトップライト(明かり取りの天窓)をつけて、「夜は星を見ながらお休みなさい」とか(土砂降りの夜は寝られへんやろ)、洋風の坪庭をしつらえて、「観葉植物でも植えてリビングから鑑賞できるようにしましょう」とか。ローコスト住宅に毛が生えた程度の予算で本当にこんなことが出来るのかと初めは疑ったが、夢追い人のような社長さんが、いかにも楽しそうに熱く夢を語るその話術にぐんぐん引き込まれ、いつしか私もすっかり夢を見ていた。

 ここで、重大な問題が発生する。企画コンペの審査員である雅恵と私の意見が割れたのである。女という生き物は、噂には聞いていたがこういうときあくまで現実的で、夢よりも利便性や経済性を追求する。そのうえさらに雅恵は、夢の実現性をシビアに追及した。地場の設計事務所の施工能力を疑ったのである。いくら図面上で夢物語が描かれていても、それは紙っペラのこと。完成品の品質に、大手や中堅とは格差があるのではないかと。大手はもちろん中堅でも、今どきは工場プレカットの建材を現場で組み立てるのが主流になっている。地場の設計事務所はそんな工場は持ち合わせていないので、昔ながらに現場で雇われ大工がノコギリで切ってカンナで仕上げる。品質は大工の腕次第ということになる。

 そこで、社長さんに頼んで完成したばかりの引渡し前の物件を見せてもらうことにした。玄関を上がると、あろうことかいきなり床がきしんだ。わたし的にはこれには気付かなかったことにしたが、階段を上がると、2階の床がまたしてもきしんだ。

「社長さん、床がきしんでますね」

「まだ接着剤が馴染んでないだけですよ。もう少しするとバッチリです」

 これをどう評価してよいか私には分からないが、夢から覚めた瞬間であったことだけは間違いない。

(つづく)