後悔しない家づくり(7) ー 成功例・失敗例(その1)

 では、ここでわが家の成功例・失敗例を紹介しよう。まずは成功例から。ただし、成功例とは、すなわちただの自慢話なので悪しからず。

《 成功例 》

■ 高気密・高断熱 + 風通しの良い間取り

 今どき高気密・高断熱は当たり前として、しかし、いくら高気密・高断熱の家といっても365日締め切ってエアコンをつけっぱなしにするわけではない。どんなに温暖化が進んでも、わが国には四季がある。風の心地よい季節には窓を開け放ち、なるべくエアコンを使わない工夫をするといい。その工夫の第一歩が、風通しの良い間取りを考えることだと思う。

 高気密・高断熱を追求すると、最大の邪魔者は窓だ。樹脂サッシを使い、ペアガラスにしたとしても限界がある。窓ガラスに断熱材は貼れないからだ。そのため最近の家は、極端に窓が少なくそして小さくなる傾向にある。高気密・高断熱は目的でなく手段のはずなのに、南側にさえ細い窓があるだけのトーチカのような家が、笑い話でなく実際にある。どうしてそこまで目的を見失ってしまうのかと思ったりもするが、住む人がそれでよければそれでよいのかもしれない。

 ということで、わが家の成功例の一番は、高気密・高断熱にこだわりながらも間取りを考える際に風通しにも配慮した点だと思う。例えば、蒸し暑いと言われる名古屋の6月でも真夏と違って朝夕はまだ十分涼しい。そこで、朝のうち窓を開け放って涼しい外気を取り入れ、少し外気温が上がり始めたら早めに窓を締め切る。高気密・高断熱なので外が少々暑くなってもすぐには室温は上がらず、そのまま夕方、外が涼しくなるまで締め切ったままエアコンなしで過ごせる。結果、名古屋市内の第2種中高層地域のマンション街に立地しながら、年間の半分強はエアコンなしで十分快適に過ごせる。

 

■ マルチエアコンという選択

 マルチエアコンとは、通常のルームエアコンはエアコン(室内機)1台に室外機が1台必要なのに対し、マルチエアコンは1台の室外機に複数の室内機が付けられる。なので、単純に言えば室外機が1台で済む。ただし、室内機の台数が多過ぎると同時に運転したときに出力が低下するので、わが家は1階に室内機3台と室外機1台、2階も同じく室内機3台と室外機1台というように2系統に分けて設置している。 

 聞くところによると、マルチエアコンは評判が悪いらしい。通常のエアコンと比べてコストパフォーマンスで劣るうえ、室外機が壊れるとそれにつながっている室内機も全部使えなくなる。メリットは室外機が1台か2台で済むことだけ。―― これが世間の評判らしい。

 しかし、私に言わせればてんで的外れだ。マルチエアコンの意味を理解していない。そもそもマルチエアコンとは、個別空調としても全館空調としてもマルチに使えるエアコンという意味だ。これで分かりにくければ、「バーチャル・セントラルヒーティング(擬似全館空調もしくは全館空調モドキ)」ということだ。

集中コントローラー(6台とも運転中)。
集中コントローラー(6台とも運転中)。

 マルチエアコンには「集中コントローラー」という名の、単なる「集中スイッチパネル」がある。わが家はLDKにこれがあって、6個のスイッチが付いている。冬の朝、このスイッチをポン、ポン、ポン・・ポンと6個押すと家中の室内機が一斉に吹き上がり、設定温度に達した部屋から順次自動で止まる。以後は、各室内機が設定温度に応じて自動で運転する。要するに普通のルームエアコンと同じである。

 セントラルヒーティング(全館空調システム)の場合は室内機が1台なので、吹き出す暖気(冷気)が家中に行き渡るのに時間がかかり、リビングに吹き抜けを設けるなどエアフロー計画が十分でないと端っこの部屋まで暖気(冷気)が行き渡らない。さらに、暖気は上へ冷気は下へ行くため、どうしても冬は2階は暖かいが1階は寒く、夏は1階は涼しいが2階は暑いということになりやすい。 その点、マルチエアコンは部屋ごとに室内機があるのですぐに温まる(冷える)し、室内機ごとにリモコンが付いているので、すべての室内機の設定温度を同じにしておけば容易に家中一定の温度に保てる。ただし、全館空調として使う以上それなりのエアフロー計画は必要で、各部屋のドアは当然開け放っておく必要がある。

 そしてマルチエアコンのメリットの極め付きは、セントラルヒーティングの場合、初期費用が300万円前後と言われるのに対して、マルチエアコンなら4LDKでおよそ50万円以下で済む。

  

■ 優れもののカウンターキッチン

超大型カウンターキッチン。
超大型カウンターキッチン。

 以前の家が当時としては斬新なL字キッチンだったので、建替えに当たっても最初はL字キッチンにこだわった。しかし、今どきはカウンターキッチンが主流で、私たちが選んだ業者は大型カウンターキッチンを売りにしていた。さらに、今ならキャンペーンで超大型カウンターキッチンが標準で付くと言われ、急いで契約してしまった。

 使ってみると、これがなかなかグッドなのだ。子どもさんのいる家庭なら、食事の準備をしながら子どもと対面で会話ができるだろうし、カウンターの向こう側とこちら側で役割を決めて手伝うこともしやすい。何を今さらと言われそうだが、流行るだけのことはある。これ、二重丸。

 

■ ハイドアと引き戸

左が引き戸、右がドア。
左が引き戸、右がドア。

 わが家は4LDKすべて洋室で、和室はない。にもかかわらず引き戸が都合3か所ある。今どき当たり前かもしれないが、引き戸といっても昭和の時代のガラガラいうやつとは違い、外観上は取っ手以外はドアと変わらない。引き戸はドアと違って開閉のためのデッドスペースがないので、間取りを考える際にうまく使い分けるとスペースを有効に活用できる。

 ちなみに、写真の左の引き戸の向こう側は雅恵の部屋で、手前は私の書斎。お気付きかもしれないが、わが家の扉は天井まで届くハイドアである。しかもメーターモジュールなので天井そのもの通常より高く、扉の高さは2.4mに及ぶ。かなり重厚な代物で、ご覧のごっつい蝶番が付いている。

 ハイドアは見た目の格好良さで人気があるという。しかし、そういう理由でハイドアを選ぶのなら危険極まりなく、悪徳業者から見たらカモそのものだ。

 ハイドアは見ての通り垂れ壁をつくらない分、躯体の構造が単純になって建築費はかなり安く上がる。それは裏を返せば躯体の強度が弱くなることを意味し、だからその分の強度を補う構造設計と建築技術が絶対に必要になる。さらに、ハイドアはドア本体が巨大化する分、いい加減な作りだと長い間に歪みが生ずる恐れがある。

 にもかかわらずハイドアを選ぶ理由とは何か。何より、冒頭に挙げた風通しの良い間取りに大きく貢献することにある。また、全館空調を考える際のエアフロー計画上も非常に都合がいい。垂れ壁は風通しの邪魔になり、特に暖房の暖気が天井付近で滞留してしまうが、ハイドアならその心配がない。さらに引き戸を組み合わせると、引き戸はドアより全開にしやすいメリットもあって一層効果的だ。最後におまけで、ハイドアは見た目がすっきりするうえに、ドアそのものの品質が高いので開閉時の安定感がある(高級車のドアをボンッと閉めたときの感じ)。

(つづく)