2012年採集記録


 この記事は、よい子の蟲だより№234(2017年1月31日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。


  2年前に今の職場に異動してからは、土日に交代勤務があるため連休が減ってしまって遠出がしにくくなった。それならこの機会に近場のギフを見直してみよう!と思い立ち、調べてみると、岐阜県のギフは既に絶滅したと言われる養老町や上石津町などを除き合併前の旧市町村で65市町村ほどから記録がある。このうち自分自身で成虫を採集している市町村数を数えてみると…半分にも満たない30市町村。これはいかん。何がいかんって、とにかくいかん。別に市町村集めなんか興味はないけれど、そういう問題ではなくって、とにかくこれではいかんのだ。

 そこで、今シーズンは岐阜県のギフを徹底的にやろうと決めた。幸か不幸か西濃の低地から飛騨の高地までまんべんなく採り残しがあるので、3月下旬から6月上旬までやって今シーズンだけで一気に「15市町村アップ」を目標とした。具体的な目標ができると人間俄然やる気が出る。―― 我ながら何でこんなに単純なんだろう。これだから仕事でも都合よくこき使われるわけだ…。


■ 3月29日(木) 大野町野ほかのギフ(下見?)

 そんなこんなで手始めに大野町野へ行く。エッ? 大野町を採っていないのってか? エヘン。 採ってないんです。90年代、初見記録狙いで野へ採集者が殺到した当時、人の多い場所の嫌いな私は寄り付きもしなかった。今にして思えば1回くらい行っておいても罰は当たらなかったろうに。

 着いてビックリ。今春はかなり季節が遅れているのでまだ下見のつもりで来たのに、車が6-7台停まっている。関東方面のナンバーも何台かいた。そもそも今日は平日だよ。最近あまり採れていないと聞いていたのに、こんなに採集者が来ていると、逆に何だか採れそうな気がしてきた。

 環境はかなり良さそうに見える。ただ、木々はまだほとんど芽吹いていない。付近の集落では白モクレンでさえまだ開花していなかった。いくら野でもまだ早い気がする。1時間ほど歩き回ったがギフの姿なし。他の採集者も皆すぐにいなくなった。そして何より驚いたのは、一見、環境は良さそうに見えたのに、歩いた範囲ではカンアオイは全く見つからなかった。当地は僅かに南に傾斜する平坦な地形で日当たりがよく、すぐ目の前まで濃尾平野が迫っていることから温暖化の影響をモロに受けやすいと考えられる。きっと夏場はかなり暑くなるのではないか。温暖化に伴い乾燥化が進み、カンアオイが衰退したという推測が成り立つ。

 この後、旧揖斐川町に移動して過去に記録のある場所を探して回ったが、カンアオイさえ見つからない。そのうえ、季節が遅れていると思っていたのに、揖斐川町北方ではトラフシジミが飛んでいた。最近、ギフを採りに行ったおり、他の蝶がほとんど見られないなかでトラフを見かけることが時々ある。トラフシジミ自体は暖地性の蝶ではないようだが、Rapala属は本来東南アジアに分布の中心を持つ熱帯系の蝶であり、トラフシジミも案外温暖化に強いのかもしれない。

 大野町、旧揖斐川町で予想外の大苦戦に焦りの色を濃くし、最後にこの周辺では比較的イージーと思われる旧本巣町へ転戦する。過去に記録の多い木知原付近で何か所か探したが、ここでもカンアオイすら見つからず。結局この日丸一日かけて3市町を歩き回り、ただの1株のカンアオイも見つけることができなかった。焦燥感がいきなり危機感に変わったシーズン初日だった。

[記録]3月29日(木) 同行者 なし

岐阜県揖斐郡大野町野、揖斐川町志津山、本巣市木知原ほか ギフ、カンアオイとも観られず。

 


■ 4月7日(土) 富加町と旧武芸川町のギフ(下見)

 この日は戻り寒波がひどかったが、もうじっとなどしていられず下見に出かけた。正午頃、富加町内を車で走行中、車窓の外を白いものがひらひら舞ったような気がした。花吹雪? いや、桜はまだ全然開花していない。雪? 雪だよ、雪! いくらなんでもそれはないでしょう。嫌がらせでしょうか。

 さて、富加町では目星をつけた最初の場所で、車を停めて5mほど歩いた所でいきなりカンアオイを発見。普通こういうもんでしょう。先週が異常だったんだ。この後も何か所かでカンアオイを見つけたが、東海環状自動車道の建設によって環境がかなり破壊されており、「多分まだいるけれど、いても少ない」と予想。もっと良い場所はないかと他を探したところ、富加町内で別のポイントを発見。こちらは狭いながら良好な環境が残っており、「ここは絶対いる」と確信した。

 次に旧武芸川町へ転戦。武儀川沿いでは桜がチラホラ開花していた。1か所目でまたもあっ気なくカンアオイを発見。カンアオイはそこかしこで見つかるが、どうも密度が低くてチマチマした感じ。もっと良い場所はないかと他を探すが、どうしても地図上で目星を付けた場所へ通じる道が見つからない。あちこちウロウロするうちに時間を使いすぎて、次の予定の旧美山町へ行く時間がなくなってしまった。

[記録]4月7日(土) 同行者 なし

岐阜県加茂郡富加町老梅ほか カンアオイ確認

岐阜県関市武芸川町宇多院ほか カンアオイ確認

 


■ 4月10日(火) 富加町と旧武芸川町のギフ(ようやく本番)

《 富加町老梅 》

 今日は平日、仕事は休み、天気予報はギフ日和。3日前に下見した富加町へ直行する。本音を言うと富加町はフライングが少し心配で、時期を優先的に考えると旧本巣町→旧武芸川町→富加町と回るのが安全と思ったが、旧本巣町は下見でカンアオイすら見つからなかったので後回しにした。何しろ今シーズン中に15市町村を落とす目標なので、今日は1日で3市町村が「ノルマ」であり、ゆっくり探している時間などないのだ。

 さて、富加町の「ここは絶対いる」ポイントへ。着いた時間が9時少し過ぎで気温はまだ少し低い。いつものように一番良さそうな場所に雅恵を残して周りへ探しに行くが、コツバメやシロチョウが少し飛ぶだけでギフの姿はない。元の場所に戻ると雅恵もまだ観ていないと言う。環境は良いがなかなかギフは姿を現さない。まだ時間が早い、まだ気温が低いと自分に言い聞かせ、はやる気持ちを抑える。

 9時45分、待望の初ギフが目の前の地面に舞い降りて、難なくゲット。新鮮な♂だった。今シーズンは2日間も下見をしたため、何だかやっと採れた気がして喜びもひとしおだった。しかし、この後もホイホイ採れるという感じではなかった。カンアオイの生育密度からして時期と天気を当てれば2桁は堅いと思ったが、まだ発生初期とみて、10時ごろに2頭目を追加した直後に速攻で転戦を決めた。何しろ今日は3市町村落とさなければならないので、時間がないのだ。

 ところがどっこい、発生地の雑木林から外へ出かかった何の変哲もない場所、枯れススキがはびこるようないい加減な場所で、いきなりホイホイホイと3♂立て続けに採れてしまった。最後の♂は、何と4-5日飛んでいるようなかなり痛んだ個体だったためリリース。ということは、小雪が舞った3日前には既に羽化していたということか…。

《 旧武芸川町宇多院 》

 次なる目的地は、やはり3日前に下見した旧武芸川町。ここは正直あまり自信がなかったが、まずは林床にカンアオイのある杉林の中へ入っていくと、陽だまりでいきなりギフが2頭舞っている。ハッハッハ、どうだ参ったか。下見の甲斐があったってもんだ。

 このポイントは全体にカンアオイの密度が低く、したがってギフも密度が低い ―― と思いきや、杉林の奥の小さな栗畑に足を踏み入れたそのときだった。足元から不意に飛び立ったギフをネット。次に2-3歩進むとまた足元から飛び立った。これをネットして取り込もうとしていると、なにやらまたまたギフが身体の周りをうろついている。猫の額ほどの小さな栗畑だが、足元の笹が短く刈り込まれていて笹の下にカンアオイがズクズクに生えているのを下見の時には見落としていた。この小さな栗畑であっという間に5♂ネットした。

 ところが、ところが、ほとんどが昨日か今日羽化したと思われるビカビカの個体なのに、こともあろうに5♂中4♂が鳥食われなのだ。オー、マイ、ゴッ! もしやこれは鳥のたたりか? 思わず周囲の木々に目をやる。ヒッチコックの「鳥」みたく、枝という枝におびただしい数の鳥がぶら下がっていた ―― ということは全然なくって、どうやら犯人は既にずらかったあとらしい。故岡田正哉氏のビークマークコレクションを思い出し、あんまり気が進まなかったけれど記念に鳥食われの3♂を持ち帰ってちゃんと展翅した。結局、この日私がネットした11♂中6♂が鳥食われという悲惨さだった。かの地を「武芸川町鳥食洞(とりばみぼら)」と勝手に命名した。誰かカスミ網でも張っといてくれ!

《 旧本巣市各所 》

 この日の3か所目は、3月29日に下見してカンアオイすら見つけられなかった旧本巣町。そのとき車で通りかかって「良さそうだな」と思ったにもかかわらず、なんとなく後回しにして結局チェックしなかった場所がある。きっとあそこに違いない。 第六感が働き、直行。山腹を巻くように林道がついており、入口に車を停めてこれを歩く。時刻は間もなく午後1時。あいにく昼ごろから薄雲が広がりコンディション的には既にギリギリの状態だった。起死回生の一発を期待したがギフの姿はない。どうもダメらしい。 時間がなくて焦っているので、すぐさまこの場所をあきらめて他を探す。地形図を見ると旧本巣町はギフの巣のように見える。かつてはそこかしこで発生していたに違いない。しかし、大野町と旧揖斐川町で探したときの印象から濃尾平野に近い場所は温暖化で環境が悪化していると判断し、旧本巣町の北辺を探すことにする。

 結果は、またしても惨敗。3時半ごろまであちこち探し回ったが、カンアオイさえ見つからなかった。そして最後の最後、初めに行った山腹の林道の下の山裾に、もしかしてもしかしたらカンアオイがあるのでは?と未練たらしく立ち寄ってみると ―― あった! あれほど探して見つからなかったカンアオイが、ちゃんとそこにあった。最初に通りかかった時に「良さそうだな」と思ったのに、第六感が「きっとあそこに違いない」と教えてくれたのに、焦ってよく探さないまま他へ転戦してしまった。やっと見つけたその時には、既に午後4時で完全にタイムオーバー。やっと答えが解かった!と思った瞬間チャイムが鳴って、来年の追試が決まったような、そんな気分だった。来年か。1年は長いぜ。

[記録]4月10日(火) 同行者 雅恵

岐阜県加茂郡富加町老梅 ギフ 5♂(内1♂リリース)

岐阜県関市武芸川町宇多院 ギフ 13♂(内、2♂雅恵採集、6♂鳥食われ、3♂リリース)

岐阜県本巣市各所 ギフ null カンアオイ確認

 


■ 4月15日(日) 可児市のギフ

 この日はまずは可児市と御嵩町の2市町を午前中に軽くやっつけて、午後からは厳しいと予想される美濃加茂市と川辺町もしくは各務原市と坂祝町へ探しに行こうという算段。可児市と御嵩町にはかねてから有名な採集地もあるし、最近好調なポイントもあるようなので、詳しいポイントは知らないが、どっち転んでも2市町ゲットは軽いと踏んでいた。

 まずは可児市大森新田へ。以前、ヒメヒカゲを採った湿地の周辺を探すつもりで入り口まで行って車から降りてはみたけれど、すぐ目の前まで新興住宅地がバンバンに迫ってきている様子に気後れして、探すことなく即、退散。

 次に、すぐ近くの可児市柿下へ。なだらかな丘陵地に溜池が点在し、付近に高圧線が走る。高圧鉄塔の保守用の小径を見つけ、ここから登る。登り始めでカンアオイを見つけ、稜線部に出たところでいきなりギフをゲット。時計を見るとまだ8時50分だった。薄曇りで気温は決して高くない。前日に尾根へ上がった個体がそのまま付近で夜を過ごしたと思われるが、この時間、このコンディションで採れてしまうのだから、気温が上がったらウハウハに違いない(←捕らぬ狸の…)。

 尾根を越えて谷の方へ下っていくと、期待どおり溜池の奥へ出た。ここで思わず息をのむ。素晴らしい環境。もしかするとここは、誰にも知られていない第一級のヴァージンポイントではなかろうか。しかし、この時間の谷部はまだ日が当たっておらず、後からもう一度来ることにして先に御嵩町を落としに行く。

 御嵩町みたけの森へ。今を去ること20年近く前、名古屋昆虫同好会の佳香蝶 №181で高橋昭氏が、「可児町と御嵩町の町境の稜線に近い丘陵地」として報告されたのを見て、当時はギフではなくヒメヒカゲを探しに行ったが見つけられなかった場所である。みたけの森から少し先で適当な場所に車を停める。そこら辺を30-40分うろうろするがギフは現れない。時期的に微妙に早いと判断して即決で転戦。途中、みたけの森の上部で3人ほど採集者を見かけて声をかけるが、誰も採っていない様子だった。

 再び、可児市柿下へ。溜池の奥は湿地状になっていてかなり環境が良いと思ったら、どうやら湿性植物の観察ポイントとして有名のようで、少し先へ行ったら立看板はあるはカメラマンはいるわで、どうやら「誰にも知られていない第一級のヴァージンポイント」どころか、「私が知らないだけの有名ポイント」だったようだ。

 カメラマンの一人が声をかけてきた。ふたことみこと会話を交わすと、いきなり、

「もしかして大岡さんですか?」

「えっ?! 大岡ですけど、どこかでお会いしましたっけ?」

「いえ、お会いしたことはないと思いますけど」

 こちとら会ったこともない人から「大岡さんですか?」と声をかけられるような有名人じゃないのでけげんに思って尋ねると、この人こそは蟲だよりの原稿ダービーでいつもぶっちぎり1位のクラブマンさんその人であった。それにしても、面識もないのになぜ私と分かったのか気になって仕方がないのでしつこく尋ねたが、「いや、なんとなくそんな気がして」とかいう生返事しか返ってこなかった。もしかしてこの人、夫婦連れの採集者を見ると片っぱしから「大岡さんですか?」と声をかけているんじゃないのか、なんて変な想像をしたりした。失礼。

 まあ、そんなことはよしとして、クラブマンさんから当地の情報を仔細に教えていただき、当地では既に数日前には発生しているらしいことも分かった。しかし、どうしたことかこの日はその後全くギフは姿を見せてくれなかった。

 可児市柿下には他にもいくつか溜池があるので、そちらへ行ってみることにする。3か所目の溜池の奥でやっとこさ1頭追加し、その後周りの尾根に登って探したが、1頭目撃しただけに終わった。この日の予報は絶好のギフ日和のはずだったが、午前中から薄曇りで昼過ぎには完全に曇ってしまい、ギフが飛ぶには厳しいコンディションとなった。

[記録]4月15日(日) 同行者 雅恵

岐阜県可児市柿下 ギフ 2♂ ほか1ex.目撃

岐阜県可児郡御嵩町みたけの森付近 ギフ null

岐阜県多治見市大藪町周辺 ギフ null

 


■ 4月25日(水) 旧串原村の幻のギフ

 今シーズンは春の訪れが遅く、4月15日の可児市はまだ発生前半のようにも思えた。それなら以降続々と発生が始まるという一年で一番大切な時期なのに、休みと天気が合わずにくすぶっているうちに、既に美濃ギフは早くも最終盤を迎えようとしていた。

 今シーズン中に「15市町村アップ」なんて当初の無謀な計画は脆くも崩れ去り、この時点でまだ3市町村。ここで私は勝負に出た。どうせ目標が達成できないのなら、同じ1市町村でも価値ある場所を狙おう。 旧串原村は岐阜県内で記録のある市町村の中でも間違いなく第一級の産地である。しかも前年に成虫が採れていて、採集地の字名までがウェブ上で公表されている。こんなの公表していいのだろうか? しかし、やはりと言うかなるほどと言うか、地図を調べても該当の字名が載っていない。2万5千図にも載っていない。どうやら廃止になった古い字名らしい。今度は地籍を調べてみる。するとどうだ、串原村の地籍図がいとも簡単に入手でき、件(くだん)の地名が載っているどころかそのエリアが地図上にマーカーで示されていた。思ったより狭い範囲でほぼ全域が山林。植林以外に開発らしい開発の跡もない。これなら一日中歩き回れば全域をしらみつぶせる。こうなればもう採ったも同然。串原で一発当てて、沈滞ムードを一気に吹き飛ばそう!

 果たして、この日はもったいないぐらいの好天となった。予定通り?一日中山の中を這いずり回ってしらみつぶしに探し回ったが、ギフもカンアオイも影も形もない。なぜだ。まあ、久しぶりにいい運動にはなった。

[記録]4月25日(水) 同行者 なし

岐阜県恵那郡串原村 ギフ null

 


■ 4月29日(日・祝) 滋賀県余呉町のギフ

 岐阜県のギフに少し嫌気がさし始めたところで届いた「みやくに通信」に、吉岡氏による滋賀県余呉町中河内のマップが載っていた。気分転換と景気付けを狙って出かけた。ところがどうしたことか、好天にも関わらずギフの姿なし。他に3人の採集者に会い、そのうち1人が未交尾♀を1頭採った以外、私を含めて3人がヌル。中河内、栃の木峠のポイントとも環境良好でカンアオイは豊富。なぜギフが現れないのか誰にも分からない。ただひとつだけ言えることとして、未交尾♀が採れたということは、確かに♂がいないということではある。景気付けどころか、ますます沈滞ムードに拍車がかかる。

[記録]4月29日(日・祝) 同行者 なし

滋賀県伊香郡余呉町中河内・栃の木峠 ギフ null カンアオイ確認

 


■ 5月4日(金・祝) 飛騨古川町ほかのギフ(下見)

 5月の3連休初日の3日は雨、4日も予報は悪かったが5日は好天が予想されたので、4日のうちに飛騨で下見をして5日に備えることにする。到着したころにはかろうじて雨も上がって「絶好の下見日和」。各所をうろついたが、旧神岡町山田でサイシンの自生を見つけた以外は成果に乏しい一日となった。

[記録]5月4日(金・祝) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市古川町笹ヶ洞 ギフ null

岐阜県飛騨市神岡町山田ほか ギフ null 山田でウスバサイシン確認

岐阜県高山市上宝町荒原・蔵柱 ギフ null

 


■ 5月5日(土・祝) 小松市大山林道のギフ

 飛騨で各地を下見して歩いていて、だんだんブルーになってきた。明日はせっかく晴れの予報なのに、このままだと明日もヌルに終わるのではないか。―― そこで、急に思い立って石川県の大山林道への大転戦を敢行した。

 大山林道へ初めて行った2010年5月1日は個体数こそ多かったもののボロ。リベンジを期して出かけた翌2011年5月4日は、残雪の多い年で麓の国道のゲートが閉まっていた。今年は絶対ゲートが開いた直後を狙って行こうと毎日道路交通情報のサイトをチェックしていたが、予想していたより早く5月1日に開いてしまって、2日は仕事、3日は雨、4日も予報が良くなかったのであきらめて飛騨へ下見に来ていた。しかし、多少ボロでも飛騨でヌルよりはマシと思い直し、4日の午後4時過ぎに飛騨を発って山中温泉の道の駅を目指す。当地には温泉施設があり、少し歩くと温泉街で一杯飲みながら食事もできるので車中泊には都合がよい。国道沿いの道の駅での車中泊は夜通し大型車の通行や車の出入りで眠れなかったりするが、当地は山間の閑静な温泉街なのでそうした心配もない。ただし、連休中のこの時期、到着が遅れると満車で停められない心配はある。

 さて、大山林道は予想どおり多少遅い目で、やはりゲートが開いた直後が狙い目だと改めて感じたが、それでも十二分に2年越しのリベンジを果たし、まずは大満足。詳細については「みやくに通信200+1号」に投稿したので、興味のある方は参照されたい。

[記録]5月5日(土・祝) 同行者 雅恵

石川県小松市大山林道 ギフ 36♂4♀(内 雅恵13♂1♀採集)

 


 Xの悲劇 -聞くも涙、語るも涙の愛車物語-

 この日、大山林道のポイントに着く少し手前で、残雪の残る林道上を倒木が道を塞ぐ現場に遭遇した。悪いことに、倒木とともに斜面を崩れ落ちたであろう2個の大きな岩が、まるで意地悪でもするかのように倒木の前と後でガードレールに引っかかって立ちはだかっていた(下図)。それでも倒木を根元からバッサリ切ってくれれば問題なかっただろうに、おそらくはわざと、地元の軽トラだけが通れるように微妙な位置で切り払ってあった。

 果たして私の愛車、日産X-TRAILは、この難関を矢印のように上手く通り抜けできるだろうか。ここを突破できないと、雅恵を連れてポイントまで片道1時間半ほど歩かねばならない。そして私は、果敢にも(無謀にも)この難関に真っ向から立ち向かったのであった。

倒木が道を塞ぐ現場の図(1)

 結果は、次の図のように、2つ目の岩がどうしても突破できずに真ん中で立ち往生するという最悪の事態となった。何度も切り返したが、車を縦にすると今度は右前方が残雪の壁に突っ込んで身動き取れないのだ。岩や倒木はどうしようもないが、残雪ぐらいならスコップがあれば何とかなるのに、庭仕事で使っているスコップやつるはしを車に積んでこなかったことをひどく後悔した。

 こんな場所でもたもたしていて地元の軽トラがやって来たら、ど叱られそうだ。意を決して、左横っ腹が岩に多少擦るのを承知のうえで強行突破した。哀れ愛車X-TRAILは、購入2年にしてキズ物とあいなった。

倒木が道を塞ぐ現場の図(2)

 しかし、悲劇はこれだけで終わらなかった。そう、帰りも同じ場所を通らねばならいのだ。そして、再び現場に差しかかったその時初めて気付いた。帰りは車の向きが逆になるので、今度は右側を擦るんだ。

 かくして愛車X-TRAILは、何の罪もないのに往復ビンタを食らうこととなったのである。ほんに、ふびんなヤツよのお。

倒木が道を塞ぐ現場の図(3)

■ 5月7日(月) 飛騨古川町ほかのギフ

 今シーズンは岐阜県のギフを徹底的にやる計画はどこへやら。それでもしかし、石川県の大山林道で久々にギフをしこたま採ったら少し元気が出て、この日は懲りもせず飛騨古川へ来ていた。最近記録が出ている笹ヶ洞に絞って探し回ったがどうしてもポイントが見つからず、消去法により、通行止め(歩行者も通行止め)になっていて立ち入ることのできない林道がきっとポイントに違いない、ということにしてこの日はあきらめた。

 3日前には気付かなかったが、この日各所でコシアブラの新葉が目立った。経験的に言って、コシアブラが適期ということはギフにはもう遅いということだ。今春は春の訪れが遅いうえに残雪が多いという情報だったが、いつの間にか春は駆け足で去っていってしまった気がした。

 

 当初、今シーズンだけで岐阜県内自己採集「15市町村アップ」を目標に掲げたが、ここまでで新たに増えたのは富加町、旧武芸川町、可児市のたった3市町村。大野町、旧揖斐川町がダメで旧本巣町も落とせず、御嵩町すら取りこぼしてしまった。串原村で討ち死にして、この日、旧古川町も落とせず、そのあとダメ元で行った旧国府町は落とせる訳もなく、この日でもってあえなくギブアップ宣言。「1シーズンで15市町村アップ」がいかに天文学的数字だったかを思い知った。というか、自分がいかに無知で身のほど知らずだったかを思い知った。

[記録]5月7日(月) 同行者 なし

岐阜県飛騨市古川町笹ヶ洞 ギフ null

岐阜県高山市国府町 ギフ null カンアオイ散見

 


■ 5月13日(日) 水鳥谷のミヤマカラスアゲハ

 美濃の山ギフとも称される乗越峠のギフの下見を兼ねて、久しぶりに水鳥谷のミヤマカラスでも採りに行くことにする。最近はギフ以外はあまりやっていないので、急に水鳥谷のミヤマカラスといってもこの日で時期が合っているのかどうかさえ定かでない。少し遅い気もしたが、実はまだ春型の♀を採ったことがないので、♀狙いなら時期はバッチリということにして出かけた。

 久々の水鳥谷は予想外に採集者が多かった。いったいみんな何狙いなのか。どうも蝶屋でないような気がして声をかけるのをためらっていると、一人が向こうから声をかけてきた。聞くと何と「ミヤマチャバネ狙い」とのたまわった。さすが渋い! 私がミヤマカラス狙いと言うと、「ミヤマカラスならいっぱいいるよ」と教えてくれた。

 しかし、その昔吸水集団が沢山観られた林道は舗装されてしまって蝶影薄く、ミヤマカラスの姿は全くない。時折通り過ぎる黒いアゲハのほとんどはオナガアゲハで、やや傷んでいた。結局、この日観たミヤマカラスは1頭のみ。ミヤマカラスより若干発生が遅いとされるカラスアゲハでさえ1♂完品を確認したのみ。時期が遅かったのか、それともミヤマカラスの吸水集団なんてとうに夢の跡と化してしまったのか…。

 さて、乗越峠への林道は、完成してから大して年数が経っていないにもかかわらず、落石や土砂崩れで通行止め状態。水鳥谷から峠までは何とか四輪でたどり着けたが、峠から谷汲方面は峠の先で完全に止まっているらしい。

 カンアオイは峠付近の稜線で簡単に見つかったが、2万5千図にも載っている峠を通る稜線の小径は、林道の開通とともに使う人がいなくなったせいか藪化が進んでいた。キャッチングポイントが難しいと感じた。

[記録]5月13日(日) 同行者 なし

岐阜県本巣市(旧根尾村)水鳥谷 ミヤマカラスアゲハ 1ex.目撃、アオバセセリ1ex.目撃

岐阜県本巣市(旧根尾村)乗越峠 カンアオイ自生確認

 


■ 6月30日(土) 神通峡のヒサマツミドリシジミ

 高山市在住、よいこの蟲の会のM君に以前教えてもらった神通峡のヒサマツを狙いに行く。渓谷の急斜面にウラジロガシが豊富に自生しており、午前中から叩いて回るがなんにも飛ばない。そこへ午後になると採集者やカメラマンが続々やってきた。こっちは午前中からやっていていい加減ダレてきているが、後から来た連中は元気で、我先にと歩き回っている。何気なく会話を交わした一人が、今さっき来たばかりなのにもう2-3頭採ったようなことを言っている。この時点で私はまだ観てもいなかった。どうやら初心者は私だけで、あとの連中は活動する時間もポイントも知り尽くしていて効率的に動いているらしい。

 結局、私が一番早く来て一番最後まで粘り、やっとこさ1♂しとめることができた。ヒサマツは午後2時前後のかなり短い時間帯に林内の小さく開けた空間などで観られ、林外の明るい場所でテリっているのはメスアカ、エゾ、トラフ…。そのことに気付くまでに貴重な時間をロスしてしまった。

 尾根筋でなく発生地でテリを張るヒサマツを初めて観ることができた。M君ありがとうございました。

[記録]6月30日(土) 同行者 なし

富山県富山市(旧大沢野町)神通峡 ヒサマツミドリ 1♂

 


■ 7月2日(月) 藪谷のヒサマツミドリシジミ

 しつこく今度は藪谷へ。一昨日の教訓から今度はゆっくり昼ごろ着くように出かけたら、着いた時には既に良さそうな場所はほとんど誰かに押さえられていた。今日は平日だよ。皆さんちゃんと仕事してる? それでもかろうじてアカメガシワで吸蜜する1♀を観察できたほか、木漏れ日の当たる地表近くをせわしなく飛び回ったのち地面に静止した個体を目撃。99%ヒサマツの♀だったと思うが、距離があり、確認する前に逃げられたのでムラサキシジミだった可能性も1%残る。

 この日、林道上の良さそうな場所はすべて押さえられていたため、仕方なく人の入らない斜面をよじ登って探していると、足元からやたらヒルが這い上がってきた。マレーシアのジャングルではヒル対策を怠らない私だが、国内ではあまりヒルにやられたことがないため虫除けスプレーを持参しなかったら10匹近くたかられた。日本もいよいよ熱帯並みになってきた。

[記録]7月2日(月) 同行者 なし

岐阜県大垣市上石津町藪谷 ヒサマツミドリ 1♀観察

 


■ 8月17日-22日(水) クチン周辺(東マレーシア)

 前年に続いて東京のアートパピヨン三浦正恒氏にご案内いただき、今度はボルネオのサラワクへ行く。

 初日は思いがけず朝から雨が降りだして、そのまま一日中、雨、雨、雨…。この時期サラワクは乾季のはずで、タクシーの運転手によれば1か月ぶりの雨だという。2日目は何とか一日持ったものの、3日目はやっと晴れ間が出たのにいやに蝶が少ないなと思っているうちにひどいスコールがやってきて、雨、雨、雨…で、そのまま、ジ・エンド。

 忙しいさなかやっと休暇を取り、高い金払ってはるばる日本からやって来たというのに、現地滞在3日間のうち1日半を雨にたたられた。それも1か月間降らずして私が着くのを待っていたかのように降った。これを嫌がらせと呼ばずして何と呼ぶ。くっそー、グレてやる。

[記録]8月18日(土)-20日(月) 同行者 三浦正恒氏、雅恵

東マレーシア・サラワク州 クチン周辺

フスクスアゲハ 2♂1♀、エサカマネシジャノメ 1♀、ヤイロタテハ 1♀(雅恵採集)、スマトラエキララシジミ 2♂、フェレティアマダラキララシジミ 1♀、キネシアフシギノモリノオナガシジミ 1♀、アナスジャアオトラスソビキシジミ 1♂1♀(交尾個体) 等々、3日間(実質1日半)で69頭採集。