2015年採集日記(中)


■ 4月25日(土) 「立山山麓」のギフ

「富山県のギフチョウ」大野豊著(2007年)
「富山県のギフチョウ」大野豊著(2007年)

 大野豊氏の「富山県のギフチョウ」という名著がある。この中に「立山山麓」という謎めいた産地が登場するのをご存知だろうか。本書に紹介されている富山県内120産地は、各産地ごとに地形図が掲載されていて、そのほとんどにピンポイントで○印が付されている。中には○印のない産地もあるが、周辺の地形図自体が掲載されていないのは国立公園内の産地を除けば「立山山麓」だけ。つまり、ここだけ場所が伏せてあるのだ。120か所も掲載されているうちの、たったの1か所である。

 どうやら「赤上がり」が採れる産地らしい。本書の表紙を飾っている強烈な赤上がり個体も、実はここで採れたものだった。

 公表したくないのなら載せなければいい。でも、きっと書きたいのだ。著者のジレンマが垣間見えるようだ。

 人間の本性として、隠されると無性に知りたくなる。そこで、なんとか場所が分からないものかと何度も読み返したが、簡単に分かるはずがない。国土地理院のサイトを開き、画面上の地形図と照らしながら読み返しても容易に謎は解けない。

 ところがである。思うところあって地形図を買ってきて、鉛筆で印を付けながら読み解いたら、いとも簡単に答えが出た! でも、こんなに簡単に分かってしまっていいのだろうか。 

 当日、現地は予想どおり残雪のためかなり下で林道が止まっていた。いくら林道とはいえ、残雪の上を歩き続けると疲れる。雅恵のアゴが出かかったころ、地形図に目をやりながら私は言った。

私 「もうすぐだよ。あそこのカーブのところまで行くと、ギフが待ってるから」

雅恵「そうね。待っててくれるといいわね」

 カーブのところまでやってきた。思いがけず開けた場所だった。よく見ると林が伐採されている。と、そのとき、私の方に向かって一直線に飛んでくるギフがいた。ここで、スパッと気持ちよく仕留めると完璧なストーリーが完成するのだが、なぜかスカッと気持ちよく空振り。

雅恵「もう、鬱陶しいなあ。そんなイージーなの振り逃がさないでよ」

私 「ハハハ、ハハハ。ピンポイントで当てたんで、それだけですっかり満足しちゃってさ。振る前から顔がにやけてたのが自分で分かったよ。ハハハ」

欲が深いんだか欲がないんだか、自分でもよく分からない。この後、次々にギフが現れるのだが、伐採されて日当たりが良い分、予想外に発生が進んでいて、どれもみんなボロだった。

死んだ♂(右)を連結したまま飛んでいた♀
死んだ♂(右)を連結したまま飛んでいた♀

 と、そのとき、雅恵が交尾個体を採ったという。

雅恵「でも♂は死んでるみたい」

私 「???」

見ると、確かに♂は死んでいる。と言うか、交尾中に死んでとっくにミイラとなった♂をぶら下げたまま♀が飛んでいたらしい。♀も結構傷んでいるので、何日もこの状態で飛んでいたと考えられる。♂にとってはまさしく、やりながら果てて本望だったかもしれない。なんてお下劣な話ではなくって、「ギフチョウ、愛の絆の物語」なのか、「死んでもあなたを離さない」ってことなのか、とにかくこんなの初めて見た。

 なお、この後、残雪の林道をさらに進んで標高を上げると、そこそこ鮮度の良いギフが採集できた。残念ながら期待したような「赤上がり」は混ざらなかった。

[記録]2015年4月25日(土) 同行者 雅恵

富山県富山市立山山麓 ギフ 17♂2♀(内8♂1♀雅恵採集。他多数リリース)

富山県中新川郡立山町芦峅寺 ギフ 1♂(ボロ。リリース)

 


■ 4月26日(日)飛騨市各地のサイシン食いのギフ(パート1)

 前日、富山へと向かう道すがら、国道41号線沿いの数河高原は辺り一面ベッタリとぶ厚い残雪だったが、その前後の飛騨古川や神岡町の低地では、そろそろ♂が発生する時期のように感じた。

《神岡町各所》

 ということでこの日は飛騨へ戻ってきたのだが、どうしたことか国道沿いは適期に見えるのに、一歩山の中に入るといきなり残雪が目立つ。朝一番で入った神岡町伏方のポイントは、斜面にこそ雪はないが山裾の林床は残雪だらけ。これはどうやら、やっちゃったかな‥。

 次に行った神岡町山田は多少マシな感じもしたが、サイシンなんぞ芽吹いている気配もない。でも仕方がないので小ピークへ向かってとぼとぼ歩いていると、途中、私たちを励ますかのように新鮮なギフ2♂が立て続けに出てきてくれた。その後、ピークに雅恵を残して周辺を探したが、まだ雪解け間もない景色にもかかわらず気温がグングン上がったおかげか、二人で9♂採れたのはむしろ幸運というか意外でさえあった。

 この後、飛騨古川に転戦する前に、朝の時点でフライングと判断した伏方に舞い戻ってみると、予想外の場所で1♂採れたが、これが右の赤紋だけ発色が悪い「片方ピンクテール」だった。

《旧古川町某所》

 正午頃、飛騨古川の「雅恵ポイント」へやってきた。ここは2年前に雅恵が見つけたポイントで、以来私たち夫婦間でこう呼んでいる。雪解けの具合は午前中の神岡町の低地と大差ないが、フライングと決め付けずにトラップを張って待つことにする。

 しばらくして、山の上から斜面を斜めに下りてくるギフがいた。真っ直ぐこちらに向かって飛んできたのに、やけに飛び方が速くて振り逃がし。しかし、15分後に全く同じ方向から次に来た個体をネットすると、これが何と♀だった。判で押したように同じ方向から飛んできたので、もしかすると向こうで交尾していたのかもしれない。

 

 私たちが粘っていた場所のすぐ近くの枯木に、やや大きめの鳥が飛来した。何やらコンコンコンコン、コンコンコンコンと、つついている。キツツキのようだ。木の裏側にいるのでそっと回り込んだところ、枯木の幹に穴を空けて営巣しているらしかった。下の穴は去年のものだろうか。巣穴から時々顔を出して外の様子を伺っていたが、ふいに穴から出た瞬間を逃さず撮影できた。小型のキツツキの一種コゲラと思われる。地上4-5mぐらいの高さのため、コンパクトデジカメのズーム機能ではトリミングしてもこれぐらいが精一杯である。なお、最近コゲラは、名古屋周辺をはじめ平野部でも見られるようになったという話を聞く。こうしてみると、ナラ枯れなどによって山中に営巣に適した枯木が増えたことにより、数を増しているのかもしれない。

巣穴から顔を出すコゲラ(小型のキツツキ)
巣穴から顔を出すコゲラ(小型のキツツキ)
巣穴から出た瞬間
巣穴から出た瞬間

[記録]2015年4月26日(日) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市神岡町山田 ギフ 9♂(内6♂雅恵採集)

岐阜県飛騨市神岡町伏方 ギフ 1♂

岐阜県飛騨市古川町某所 ギフ 1♀



■ 5月2日(土) 飛騨市各地のサイシン食いのギフ(パート2)

残雪がひどく、杉の木はバッタバッタ。電柱までもがポキリ。
残雪がひどく、杉の木はバッタバッタ。電柱までもがポキリ。

 この日は神岡町大笠のポイントへやってきた。大笠は先週採った神岡町の低地と目と鼻の先だが、それよりは標高が少し高く、谷も深くて残雪の影響があるので、この日でまだ間に合うだろうという計算だった。

 現地に着くと予想をはるかに超える残雪に目を丸くする。そこかしこで杉の木がバッタバッタ倒れていて、挙げ句は電柱までこのありさま。冬場の豪雪は想像するにあまりある。当然サイシンは芽吹いておらず、フライングの不安がよぎる。

 ポイントの斜面を登っていくと、ほどなく斜面の少し上を飛ぶギフを発見! 追おうとするが、なにせ斜面が急なためままならず、すぐに見失ってしまった。この場所にトラップを仕掛けてしばらく待つが現れそうにないので、いつものように雅恵を残して急な斜面を登ることにする。昨年は苦労して登ったのに上では成果がなかったので、違う斜面を登ることにしたが藪こぎが超きつくて四苦八苦した。途中、溜まりそうな場所があったがギフの姿なく、結局今年も上では成果がないまま下りてくると、下も全然ダメとのこと。

 この後、周辺の他の場所もウロウロしたが、成果に乏しい一日となってしまった。快晴で暑いぐらいのコンディションで、これがかえって災いしたかもしれない。せっかくの連休の初日、ほろ苦いスタートとなった。

[記録]2015年5月2日(土) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市神岡町大笠 ギフ null(1ex.目撃)

岐阜県飛騨市神岡町伏方 ギフ null

岐阜県飛騨市古川町数河 ギフ null



■ 5月3日(日) 旧国府町ほかのギフ

《神岡町大笠》

 連休2日目のこの日、懲りもせず大笠に来ていた。昨日はきっと出始めで数が少なかったので、好天で気温も上がっているので今日あたりドッと出ることを期待して‥。

 現地に着いて車を停めようとしているとき、道端をウロウロしているギフを雅恵が見つけて教えてくれた。車を降り、軽くネットしようとしていきなり振り逃がし! このところ要所要所でいやに振り逃がしが目立つ。これも加齢に伴う体力の衰えってやつが原因だろうか。思い起こすと、たいてい1頭目を振り逃がしている。4月25日の「立山山麓」しかり、翌26日の「雅恵ポイント」しかり。そしてこの日は、あろうことか次の2頭目も振り逃してしまった。数の少ないポイントで2頭連続振り逃すと致命的だ。サッカー日本代表の決定力不足を嗤(わら)ってなどいられない。

 結局、幸先よく2頭見たものの、私が見たのはこれっきり。雅恵はその後もう1頭見たがネットチャンスはなかったという。もともと少ないポイントとはいえ、どうしてこんなに少ないのだろう。実は、昨日の時点で「当然サイシンは芽吹いておらず‥」と思っていたが、この日よく探すと日当たりの良い場所では芽吹いていた。あまりの残雪の多さにビックリして、先入観が働いてしまったようだ。とすると、本当に出始めか? むしろ、このところの好天・高温続きで、雪のない斜面ではすでに発生終盤で、斜面が急なだけにどんどん上がって散ってしまったのではないか。こうなると振り逃がしが余計に悔やまれる。鮮度を確認するチャンスまで逃がしてしまったからだ。

 残雪の多い年は、斜面の急なポイントは本当に難しいと改めて感じた。急斜面を雪崩れ落ちた大量の雪が、根雪となって山裾を埋め尽くしている。ドーンと雪のある場所と全くない場所が隣り合わせていて、どっちが現在の本当の季節なのか戸惑うばかりだ。そのうえ今年は4月下旬以降、好天と高温が続いており、雪が解けると一気に発生するため時期をつかむのが輪をかけて難しくなっている。

 明日は雨の予報だ。このままだとせっかくの連休、絶好の好天のなか2日間連続nullという屈辱を味わうことになる。ピンチ!

《旧国府町某所》

 ピンチはそのままチャンスである。ここで私は勇気ある選択(結果次第で「無謀な選択」とも言う)をした。昨シーズン、雅恵が1♂5♀採集して私だけ採れなかった旧国府町のポイントへの転戦を図ったのだ。彼の地は平年で5月10日前後の発生と考えていて、今年のカレンダーなら5月9日(土)・10日(日)が適期と予想していた。しかし、大笠とは対照的に地形が平坦で日あたりが良いので、意外と残雪の影響を受けていないかもしれない。だとすれば、好天・高温の影響でかなり発生が早まっている可能性がある。

 だとしても、本当は連休終盤の5日・6日が狙い目と思った。今日は3日だ、いくらなんでも早すぎる。それに発生地ポイントなので、この好天のなか午後からでは厳しいかもしれない。―― 迷ったときは攻めるに限る。この時点でまだ十分昼前に着けるつもりでいたので、急いで転戦することにした。

 途中、あろうことか倒木が林道を塞いでいた。なんてこった。よくよく今日はついていない。あきらめようかとも思ったが、あきらめずにいま来た道を取って返し、大きく迂回して別のルートで目的の場所へ向かった。ところが、今度は林道に新しくゲートが設置されていた。泣きそうになった。でもよく見ると、チェーンがぐるぐる巻きにしてあるだけで鍵はかかっていない。通行禁止の表示もないので、チェーンを解いて入らせてもらうことにする。こうして30分以上ロスして現地に着いたのは12時15分。予想以上に残雪はほとんどなく、木々の芽吹きの状態は、きっと発生していると確信させるものがあった。

 トラップを張って待つことにする。しばらくして、いきなり来た! が、通過してしまった。ガックリしているところへ2頭目が飛来。今度こそ仕留めて、私にとって2012年に最初にこの場所を見つけたときから数えて足掛け4年にして、遂に旧国府町のギフを仕留めた。この後、感慨に浸る間もなく次々飛来して忙しくなるが、たった15分で二人で7♂採集したところでピタッと飛来が止まった。その後、追加のないまま1時頃には曇ってしまった。

 これで終了と思った。しかし、予想外の大成果にしばらく興奮冷めやらず余韻に浸っていると、いつの間にか日差しが戻る。すると再び忙しくなった。どうやら最初の15分は付近にいた個体がトラップに吸い寄せられ、その後ひと段落した後、今度は順次ヒルトッピングから帰ってきた個体がやって来たらしい。

中央に見事なピンボケのギフチョウ。
中央に見事なピンボケのギフチョウ。

 最後は余裕をかまして、付近の枝に止まったギフの写真を撮ろうと試みた。旧国府町のギフの生態写真はなかなかお目にかかれないだろう。ところが、どうしたことか、どうしてもコンデジのオートフォーカス機能がうまくピントを合わせられない。白い壁などにはピントが合いづらいことは先刻承知だし、自宅の庭で羽裏の白っぽいヤマトシジミにカメラを向けた時にも、なかなか合わずに苦労した記憶がある。

 しかし、ギフチョウは黄色と黒のダンダラなので、まさがこんなにピントが合わないとは思いもしなかった。いや、むしろこれまでにもギフチョウにカメラを向けたことは何度もあるが、こんなに苦労した覚えはない。20回ぐらい試みたが遂にピントが合うことはなく、こんな変ちくりんな写真をアップすることとなった。どうも羽の裏側の鱗粉構造に原因があるように思えてならないが、いかがだろうか。

[記録]2015年5月3日(日) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市神岡町大笠 ギフ null(3ex.目撃)

岐阜県高山市国府町某所 ギフ 15♂2♀(内7♂1♀雅恵採集)



■ 5月5日(火・祝) 旧荘川村のギフ

 旧国府町で味をしめて、早めのポイントへやってきた。旧荘川村の各ポイントは平年で5月15日頃が適期だとすると、いくら好天・高温続きといっても、さすがにまだ早いと思いつつ、次の9日(土)・10日(日)の下見を目的に、という名目でやってきた。

 かつて荘川村といえば野々俣や御手洗で採集経験はあるが、これらのポイントにとらわれることなく、地形図上で目星をつけた場所を探す。下見をするにはもったいないほど気持ちいい五月晴れ。結果は気持ちいいほどの惨敗。一日中探し回って、カンアオイさえ全然見つからなかった。下見にもならず。

[記録]2015年5月5日(火祝) 同行者 雅恵

岐阜県高山市荘川町各所 ギフ null

 


■ 5月10日(日) 旧白鳥町石徹白のギフ(パート1)

中腹の杉林の林床は残雪だらけ。
中腹の杉林の林床は残雪だらけ。

 懲りもせず、というか、何とかのひとつ覚えよろしく、またしても早めのポイントへ来てしまった。途中、中腹の杉林の中はまだご覧のとおりの状態で、もしかしてフライングかもと思いつつ登る。お目当ての尾根で正午近くまで粘って、かろうじて二人で2♂。さすがに早すぎた。でもnullでなくて良かったと、早々に下山する。

 途中、中腹の杉林まで降りてきたときだった。雅恵が、脱いで腰に巻いていた上着をどこかに落としてきたと言う。その上着はギフ採集でいつも愛用している雅恵のお気に入りで、色鮮やかなスーパービビッドセルリアンブルー(?)によくギフが引き寄せられるので、これを失くすことは私にとっても痛手である。だいいち、山にゴミを散らかしてくるのは良くないので、億劫だったが探しに戻ることにする。色が色だけに山中ではよく目立ちすぐに見つかると思ったが、これが意外と見つからない。途中の斜面に雅恵を待たせ、そこから上は独りで登る。さっき下りてきたばかりの急斜面を再び登ると、モチベーションが低いためすぐにへこたれそうになる。

 何となく嫌な予感がしていたのが的中し、結局見つからないまま先ほどまで粘っていた尾根に戻ってしまった。そこにも上着は無かった。その代わりに、11時前までに2♂上がってきたきり正午近くまで粘って全く来なかったギフが、12時半ごろ戻ったら3♂溜まっていた。風が強かったものの朝から快晴で、どうして上がってくるのがそんなに遅かったのか不思議だが、とにかくあきらめるのが早すぎたと知った。

 その後、途中の下りで雅恵がさらに1♂追加し、上着は見つからないまま中腹の杉林まで下りてきたときだった。何のことはない、探していた上着がそこに落ちているではないか。要するに、最初に雅恵が「どこかに落としてきた」と訴えたそのすぐそばに落ちていた。バカ者! まずは付近をよく探せ。でも、おかげで採れてよかったよ。上着も見つかったし。という訳で、全ては丸く納まりました、とさ。

[記録]2015年5月10日(日) 同行者 雅恵

岐阜県郡上市白鳥町石徹白杉山中腹 ギフ 6♂(内2♂雅恵採集)

 


■ 5月17日(日) 旧白鳥町石徹白のギフ(パート2)

イワウチワに頭を突っ込んで吸蜜するギフチョウ。※以前「イワカガミ」と記していたのは「イワウチワ」の誤りでした。
イワウチワに頭を突っ込んで吸蜜するギフチョウ。※以前「イワカガミ」と記していたのは「イワウチワ」の誤りでした。

 先週フライング気味だったとはいえ6♂採集した石徹白に、またしても来てしまった。1週間前に発生していたのだからこの日はある程度ボロが混じることを覚悟で来たのに、なぜかほとんど新鮮な個体ばかりだった。

 採集者が3人ほど入っていて、この日の一番の狙い目と思っていた小ピークを押さえられていた。今シーズン、ギフ採りに来て採集者を見かけたのはこの日が初めてである。それだけ他人が行かない場所へ行っているということだと思うが、他人が行かない時期に行っているということもあるかもしれない。ただのへそ曲がりか?

 ところで、実は3年連続で同じ5月17日に石徹白の同じポイントへ入っている。毎年季節感がバラバラで、どうも石徹白というところは季節をつかむのが難しい。ただ、ひとつだけ自信を持って言えることは、全く意外にも、昨年よりも今年の方が季節が遅れていたということ。この時期、各地ともかなり発生が早まっている感があるなか、石徹白だけの特異現象だった。よほどこの地方のこの冬の積雪が多かったのだろうか。

こんな午後の道端にギフが現れた。
こんな午後の道端にギフが現れた。

 昨年、山麓付近は完全に初夏のたたずまいでミヤマカラスアゲハが飛んでいたが、そんな中で新鮮なギフの♂が採れて驚いた。今年の山麓ははまだ春の風景なのでギフが出てきても驚かないぞと思っていたのに、帰り支度をしている足元にいきなりギフが転がるように飛んできて驚いた。あわてて採ると新鮮な♀である。ということは付近に食草があると思い、ヒメカン食いかサイシン食いか確かめようと探したが見つからない。あきらめて今度こそ帰ろうとしているところへ、今度はブルーネットに絡むギフがいて、採ると新鮮な♂。どうやらこの付近で発生しているのではなくて、頭上の杉の梢で今夜のねぐらを探していたものが降りてきたものらしいと理解した。

[記録]2015年5月17日(日) 同行者 雅恵

岐阜県白鳥市石徹白杉山中腹 ギフ 19♂5♀(内12♂1♀雅恵採集)ほか2♂リリース

岐阜県白鳥市石徹白杉山山麓 ギフ 1♂1♀

 


■ 5月23日(土) 旧荘川村六厩ほかの・・

《旧荘川村六厩》

 先週の石徹白を基準にすると、六厩はこの日でまだ間に合うと考えてのこのこ出かけた。女滝のポイントでは一番美味しい場所で採集者が2人頑張っていたので六厩本体の湿地に行ってみると、何と誰もいない。六厩へ来てこんな経験は初めてだ。一瞬色めき立ったが要は時期をまるで外していたらしく、採集者も現れなければギフも全く現れず。とっとと退散。

《旧清見村せせらぎ街道》

 せせらぎ街道を南下しながら、所々で車を停めてミヤマカラスアゲハとカンアオイの探索を行った。ミヤマカラスでさえ時期的にもう遅かったようで、少数を目撃したのみ。カンアオイは全く成果なし。

 この日、せせらぎ街道沿い各所で災害の復旧工事が行われており、旧清見村巣野俣から西ウレ峠を経て麦島周辺では、山に入ると沢沿いを中心に水害の爪痕がいたるところで生々しかった。最近、日本列島どこもかしこも水害銀座で春夏秋冬時期さえ選ばずなので、他人様のところの水害なんぞ一体いつのことか記憶にもなかったが、どうやら昨年8月17日にこの地方で豪雨災害があったらしい。

《郡上市大和町》

山腹を彩るタニウツギ
山腹を彩るタニウツギ

 流れ流れて、ぎふ大和の長良川右岸地域に来ていた。以前から地形図を眺めながらこの地域に目を付けており、いつかこの地でギフチョウでひと山当ててやろうともくろんでいたが、ちょっと足を踏み入れただけで根性無しの私は即刻やる気を失くした。

 山裾の耕作地周辺にウスバシロが群れていたので、こんなものでも採ってお茶を濁す。

 山腹を彩るタニウツギのピンクの花にカメラを向けていたとき、いきなり目の前の花にアオバセセリが飛来した。ピンクの花にグリーンの蝶はなかなか絵になる。ラッキー、シャッターチャンス!と思ったのもつかの間、一瞬で飛び去ってしまった。しばらく待ったが戻ってこなかった。アオバセセリの吸蜜植物としては白い花しかイメージになくピンクは珍しいと思うが、残念ながら一瞬のことで吸蜜に訪れたとは断定できない。

 板取方面へ抜ける山道のトンネル手前で、ネットに絡んでホバリングする中型のセセリがいた。コチャバネセセリにしては大きいと思ってネットしたが、手にとっても一瞬何か分からない。ニホンセセリモドキとかいう蛾がいたことを思い出したが、どうも違う。ミヤマセセリだ。何を驚いたって、周囲は写真のようにタニウツギが満開で、同じ場所でコミスジやカラスアゲハが飛んでいた。初夏の風景の中に早春の蝶ミヤマセセリ、それも新鮮な♂だった。おまけに見たこともないような矮小個体だったので余計に分からなかった。このところどうも季節がつかめないと思っていたが、季節が分からなくなっているのは私だけでなく蝶も同じと感じた。

 なお、この日、ぎふ大和へ向かう途中の郡上市八幡町地内で、国道156号線の路肩に停車中に田圃の上を飛翔するモンキアゲハを目撃した。この時期の個体は春型であり、付近で越冬した可能性がある。「原色日本蝶類生態図鑑(I)(保育社)」によれば、本種の越冬限界は「暖帯林の上限である年平均13℃の等温線以下」とのこと。ちなみに、八幡測候所の最近30年間の年平均気温は12.5℃であり、直近3年の年ごとの平均気温も13℃を上回るには至っていない。

2012年:12.3℃

2013年:12.7℃

2014年:12.4℃

[記録]2015年5月23日(土) 同行者 雅恵

岐阜県高山市荘川町六厩 ギフ null

岐阜県郡上市八幡町瀬取 モンキアゲハ 1ex目撃

岐阜県郡上市大和町落部 ウスバシロ 8♂1♀、ミヤマセセリ 1♂