オオワシ・オジロワシを訪ねて知床の流氷の海へ(前編)


■ 3泊4日7万円の激安ツアー

 3月3日(土)から3泊4日の豪華版で北海道へ流氷を見に行ってきた。「豪華版」といっても3泊4日が豪華という意味で、7万円ポッキリの激安ツアーである。本当はツアーでなく個人で行きたかったが、冬の北海道はレンタカーは心配だし、今回の目的の知床方面は電車やバスを乗り継いで行くには不便で、あれこれ調べているだけでうんざりしてきた。そこで仕方なくツアーを探してみると、目を疑うような激安ツアーを見つけて思わず飛びついた。

阿寒湖温泉の高級ホテル「あかん遊久の里 鶴雅/レラの館」
阿寒湖温泉の高級ホテル「あかん遊久の里 鶴雅/レラの館」

 安かろう悪かろうかと思いきや、初日の晩は割高な土曜日だというのにこんな高級ホテルに連れてこられた。後でネットで調べてみたら、この方面で指折りの人気ホテルのようで、この部屋は土曜日は1泊2食付20,000円以上。今回のツアーの費用は、飛行機とホテル、バス代や添乗員の人件費等々どう計算しても1人10万円を下らない。というか、他社の似たようなツアーが2泊3日12万円なので、今回のツアーの通常価格は14万円ほど、つまり50%オフという気がする。

 何かからくりがあるのではと疑った。「モニターツアー」を謳っていたのでレポートでも書かされるのかと思いきや、アンケートに答えておしまい。アンケートはバスの中で3分で書けた。しかもアンケートのお礼とかいう土産までくれた。いったいツアー料金はどういう仕組みで決まるのか。資本主義社会に生まれ育って50年以上、大学では経済学部で学んだが、資本主義経済の謎は一向に解けそうにない。

 

■ 流氷はいずこに

 3月3日発というと例年なら流氷シーズンもそろそろ終盤。流氷が見られるかどうかは少々微妙なタイミングだが、今年の冬は寒いので全く心配ないとタカをくくっていた。それがどうだ、出発当日の朝、何となく虫が知らせてネットで「海氷速報」を見て唖然。1-2日前まで山盛りあった流氷はいずこに‥。

 海氷速報(外部リンク)

 どうやらこれは、3月1日から2日にかけて北海道を襲った爆弾低気圧の仕業らしい。台風並みに発達した低気圧の影響で道内は10年に1度とかいう猛吹雪に見舞われたが、この時の猛烈な西風で流氷が流されてしまったというのだ。一体全体そんなことがあるのか。流氷なんてものは、いったん接岸したら春になって解けるまでそのままそこにあるものと思っていた。

 「あなた、よっぽど日ごろの心がけが悪いんじゃない?」

もう行きたくないと思えるほどブルーになっている私に、追い討ちをかけるような雅恵のこの言い草。ふん、グレてやる。

 かつて流氷は、次々に押し寄せて流氷の丘や山ができるほどで、少々の風や波ではビクともしなかった。それが最近では温暖化の影響で、流氷が海を埋めつくしているように見えても実は中小の流氷がぷかぷか浮いているだけなので、激しい風や波で流されて一夜で沖へ去ってしまうことがあるのだという。

 しかし、観光客は流氷があったのなかったのと一喜一憂していればそれで済むが、この時期、流氷の上で子育てをしているゴマフアザラシにとってこれは死活問題だ。流氷が流されてゴマフアザラシの親子が散り散りバラバラになっていないか、そう思うと居ても立ってもいられない。グレてる場合なんかじゃない。

 そんなこんなで、ゴマフアザラシ親子の安否を確認するため(?)、気を取り直して流氷がないかもしれない北海道へと旅立つのであった。

 

■ オオワシ・オジロワシを訪ねて

 今回の旅の本当の目的は、流氷を見るというより流氷とともにシベリアからやって来る国の天然記念物で絶滅危惧種のオオワシとオジロワシを見ることだった。羅臼の港から出る船に乗ると、この時期99%の確率で見られるとのことで、世界各地からバードウォッチャーがやってくるらしい。99%というのだから、これで見られなかったら本当に「よっぽど日ごろの心がけが悪い」ということだ。

 2日目(3月4日)の昼前に羅臼に到着。昼食を済ませて午後1時の船に乗り込む。羅臼は知床半島の根室海峡側つまり太平洋側に位置し、オホーツク海側と比べると元々流氷は少ないが、この日は情報どおり切れっ端がいくつか海岸近くを漂っているだけで、目視する限り海に流氷の姿はほぼなかった。

沖に漂う流氷。バックは知床の山。
沖に漂う流氷。バックは知床の山。

 それでも船は出港し、沖の方にポツンと1つだけ浮いている流氷を目指す。祈るような気持ちで近づいてみたが、残念ながら数羽のカモメが羽を休めているだけだった。

 これで万事休したかと思えたが、この後なぜか船は全速力で港の方向に戻る。実はそこに秘密のポイントがあったのだ。そこで見た光景が下の写真の数々である。そこには思いがけず一面の流氷と、10羽近いオオワシと数羽のオジロワシの姿があった。一度は諦めかけたオオワシ・オジロワシの勇姿を、この場所で間近で見ることができた。

流氷上のオオワシの勇姿。翼を広げると2mにもなる。
流氷上のオオワシの勇姿。翼を広げると2mにもなる。
流氷上のオオワシの成鳥。額、翼前縁、腿羽、尾羽が白い。
流氷上のオオワシの成鳥。額、翼前縁、腿羽、尾羽が白い。
この個体は額が白くないので、まだ十分成熟していないと思われる。
この個体は額が白くないので、まだ十分成熟していないと思われる。
一番左はオジロワシ。大きさはオオワシに引けを取らない。
一番左はオジロワシ。大きさはオオワシに引けを取らない。
滑空するオジロワシ。尾羽だけが白い。
滑空するオジロワシ。尾羽だけが白い。

 翼を広げると2mにも達する巨大なワシたちが、視界に入るだけで10羽以上もいた。真っ白な流氷上で、とりわけオオワシの美しさは目を引くものがある。この素晴らしい光景をいつまでも眺めていたかったが、船は賞味10分余りでこの場を立ち去る。すぐに次の船が来るためだ。

 ところでどうしてこの場所にだけ流氷がいっぱいあるのかというと、ここは羅臼漁港の中なのだ。つまり防波堤の内側であり、港の中まで入り込んだ流氷が防波堤に遮られて、強風にあおられても外へ流れ出なかったのだ。では、なぜこの場所にワシたちが集まっているかというと、なんと、餌付けしている。観光船が投げる魚に集まって来ているのだ。

 写真はときに真実を伝えない。上の写真だけを見れば、それは大自然の生き物たちの素晴らしい描写のように見える。しかしその実、そのシチュエーションは下の写真なのだ。羅臼漁港に閉じ込められた流氷の上で、船から投げられた魚にオオワシやオジロワシがカラスやカモメとともに群がる。この場所で撮った動画には、悲しいほどのカラスの鳴き声がバックに入っていた。

羅臼漁港に閉じ込められた流氷。ここでワシたちが餌付けされている。
羅臼漁港に閉じ込められた流氷。ここでワシたちが餌付けされている。

 自然保護の名のもとにこうした行為が行われるのなら、それはナンセンスというほかない。観光目的というのなら、気持ちは分かるが賛成し難い。もちろん善意でやっているに違いないのだが、知床が世界自然遺産に登録されたいま、このような誤解を招く行為はやめたほうがいい。