夢のヘロン島が現実に!(パート2)


■ サンセット コレクション

 夕方、桟橋へサンセットを見に行く。よく晴れているにもかかわらず水平線の彼方には薄雲があって、海に沈む太陽を見ることはかなわなかった。翌日は雲が多くてがっかりしたが、入道雲の向こうに陽が沈んで間もなく、鳥肌モノの美しい夕焼けが現れた。4日間通って、同じ場所でも毎日違う夕焼けの表情があることを知った。桟橋の向こうの難破船が、絶好の被写体となっていた。 


ヘロン島の夕焼け
ヘロン島の夕焼け

■ ウミガメの産卵

 朝4時半に起きてサンライズを見に行くと、陽が昇る前なのにもうすっかり明るい砂浜でウミガメの産卵に出あった。ウミガメの産卵といえば明け方の暗いうちに終えるものと思っていたので少なからず驚いたが、どうやらすでに産み終えて卵に一生懸命砂をかけているところだった。

産卵を終えて卵に砂をかけるウミガメ
産卵を終えて卵に砂をかけるウミガメ

 

 やがて砂をかけ終えると、ちょうど昇りはじめた朝日を浴びながら巣穴からはい出し、重たい身体を引きずるようにして海へと向かう。途中、何回も休みながらやっと波打ち際までたどり着き、海へと姿を消した。ウミガメが通ったあとには美しい砂模様が残されていた。


産卵を終えて海へ帰るウミガメ
産卵を終えて海へ帰るウミガメ

■ 海鳥たちのコロニー

 ヘロン島は島全体が海鳥たちのコロニー(集団繁殖地)になっていて、私たちが訪れたときはクロアジサシの繁殖期にあたり、それこそ何千何万というクロアジサシが木という木に営巣していた。おかげで木の下では常に糞爆弾の危険にさらされ、ビーチでのんびり昼寝をしたくても木陰はどこも危険なため炎天下で寝るハメになる。

樹上で集団営巣するクロアジサシ
樹上で集団営巣するクロアジサシ
炎天下のビーチで日なたぼっこ?
炎天下のビーチで日なたぼっこ?
ヒナの姿が見える。
ヒナの姿が見える。
木の下は鳥の糞で真っ白!
木の下は鳥の糞で真っ白!


 ヘロン島の名の由来は鳥のサギ。サギといえば日本では川や池の鳥だが、こちらにはリーフヘロンと呼ばれる海のサギがいる。島全体が海鳥たちの楽園で、そこへ人間がちょっとお邪魔させていただいている。レストランは鳥が侵入しないように周りをネットで張り巡らしてあり、さながら人間が鳥小屋の中で食事をしている格好だ。

ヘロン島の名の由来リーフヘロン(サギ)
ヘロン島の名の由来リーフヘロン(サギ)
セグロアジサシ
セグロアジサシ
干潮時に浅瀬で採餌するサギ
干潮時に浅瀬で採餌するサギ
幼鳥にしつけ(せっかん?)するカモメの親鳥
幼鳥にしつけ(せっかん?)するカモメの親鳥

レストランから外の眺め。鳥が侵入しないようにネットが張り巡らされている。
レストランから外の眺め。鳥が侵入しないようにネットが張り巡らされている。

■ 3万2千キロを飛ぶ「飛べない鳥」 “ ウ ー 子 ” の正体

 ヘロン島では昼間は海鳥たちの声がギャーギャーとやかましいが、夜ともなれば打ち寄せる波の音以外は物音一つしない静寂の世界に包まれる。―― そう信じて疑わなかった。

 ところがである。日が沈んでしばらくすると、森の中のあちこちからウーウーと不気味な唸り声が聞こえてくる。島には海鳥ぐらいしかいないはずなので鳥の声に違いないが、これがマレーシアのジャングルだったら獰猛な肉食獣を想像して背筋が凍ったことだろう。それぐらい不気味な声だ。人が寝静まる頃には、森じゅうでウーウー、ウッウッウー、アーウー、エーウーと、身の毛もよだつような不気味な重低音を響かせて悪魔の大合唱となる。セミの夜鳴きならみんな同じ声なのでいくらやかましくてもそのうち慣れるが、“ウー子” は10羽が10羽とも声色が違うので、気になって仕方ない。重低音の大合唱の合間に、突然1オクターブ高い声でアーアーと合いの手を入れるやつがいたりすると、完全に目が覚めてしまう。日本から引きずっていた寝不足を解消するつもりが、まったくあてが外れた。

 では、“ウー子” の正体を突き止めてみよう。

 夜、ウッドデッキで夕涼みをしていると、真っ黒な鳥らしき生き物が地面を這いずり回っている。飛べないのだろうか。歩き方もカモメやシギのようにトコトコと歩くことはなく、まさに這いずり回るという感じ。なんという不器用な鳥だ。

 翌朝、付近を調べてみると木の根元に大きな巣穴のようなものが見つかった。どうやら昼間はこの中に潜んでいて、夜になると這いずり出て悪魔の大合唱をするらしい。夜行性の飛べない鳥か?

同右
同右
木の根元に掘られた巣穴
木の根元に掘られた巣穴

 

 再び夜。ウーウーと唸り声のする方へ、カメラ片手にそっと近づく。

 そして、遂にカメラは捉えた! ストロボの光の中に浮かび上がった驚くべき “ウー子” の正体とは ―― 地面をよたよたと這いずり回るハトほどの大きさの真っ黒な鳥。結構可愛い顔をしている。不気味な声と不思議な生態とはうらはらに、何の変哲もない普通の鳥だった。この姿形で飛べないってことは、いくらなんでもあり得んだろう。

“ウー子”の正体
“ウー子”の正体

 

 

 何枚か撮影した中の1枚のミスショット(右の写真)に、海鳥の特徴である水かきがしっかり写っていた。

結構可愛い顔をしている。
結構可愛い顔をしている。
海鳥の特徴である水かきが‥
海鳥の特徴である水かきが‥

 

 帰国後インターネットで調べて、驚くべき事実が判明した。飛べないと思ったこの鳥こそは、南東オーストラリア海域で繁殖して日本近海を通ってベーリング海まで渡りをするハシボソミズナギドリであった。1年で飛ぶ距離は約3万2千キロにも及び、渡り鳥の中でもその飛行距離はトップクラスであるらしい。繁殖地の森の中では、大海原をグライダーのように飛ぶための長い翼が邪魔になって飛びにくいので、翼を傷つけないように飛ばないだけと知った。

グライダーのように飛ぶハシボソミズナギドリ
グライダーのように飛ぶハシボソミズナギドリ
洋上のハシボソミズナギドリ
洋上のハシボソミズナギドリ

写真、地図ともwebから無断転載ゴメンなさい。


■ ヘロン島での食事

 ヘロン島のリゾートは三食付き。何しろ泊まったリゾート施設以外に何もないちっぽけな島なので、当たり前ではある。

 朝食は普通のホテルと同様のビュッフェだが、昼はメニューからチョイスする。前菜かメインのメニューの中から1品選べというので、2人の場合なら前菜とメインから1品ずつ選んで2人で食べればちょうど良い。もっとも、前菜はサラダかスープを選べば問題ないが、メイン料理は、普通の日本人が昼食として食べられそうなものはバーガーかフィッシュ&チップスぐらいしかなく、結局、チキン、ワギュウ(和牛)、バラマンディ(魚の一種)、ベーコンと中身を変えただけで毎日バーガーを食べ続けた。

昼食のバーガー
昼食のバーガー
同じくチキンシーザーサラダ
同じくチキンシーザーサラダ

 

 問題は夕食である。滞在4日間のうち2日はビュッフェだったので問題ないが、あとの2日はメニューからのチョイスだった。1人につき前菜とメイン各1品選ぶ。基本的に好き嫌いなく何でも食べる私としては、「郷に行っては郷に従え」なので、東南アジアではローカルフードを食することにしている。そこで、オーストラリアだけに「豪に入っては豪に従え」といきたいところだが、そうもいかない事情がある。なぜなら、オージーときたらみんな100キロはあろうかという巨漢ばかりなので、うかつに同じものをオーダーすると物凄いボリュームなのだ。食べ物を残すことが嫌いなので、すぐに胃を壊しそう。

 幸い、ブリスベンの街でもそうだったがメニューにはアジアンフードがかなり目に付く。そこで、ボリュームの軽そうなアジアンフードを選んでオーダーしたが、これが実に美味なるものと妙ちくりんなものが混在していて、当たり外れが大きかった。

 

 下の写真、エビのフリッターは前菜で、マグロの刺身はメイン。それはなぜかはともかく、エビのフリッターはマンゴーソースとココナッツを絡めてスーパーデリシャス。刺身もかなりの上物。プリンみたいなものは、黒い部分が醤油を固めたもので、白い部分はワサビ風味だった。ツマの代わりが生野菜というところがオージースタイル。

エビのフリッター トロピカル風
エビのフリッター トロピカル風
マグロの刺身
マグロの刺身

 

 問題は次の左の写真。メニューの本当の名前は忘れたが、豆腐ステーキのようなものを予想してオーダーしたらこんな妙なものが出てきた。恐る恐る食べてみると、角で頭を打てば死ねそうなほど固い豆腐らしき食材を、大胆にもオリーブオイルでソテーしたものと想像できた。味付けらしい味付けはない。これが生野菜の上に乗っている。白いキューブはチーズ。赤いのは言わずと知れたスイカである。どうだ、まいったか。これぞ究極のベストコラボレーション ヘロン風? 豆腐、チーズ、スイカ…、認知症の試験に「桜、猫、電車」というのがあるのを思い出した。

豆腐のオリーブオイル焼き?
豆腐のオリーブオイル焼き?
お気に入りのビール 「フォーエックス ビター」
お気に入りのビール 「フォーエックス ビター」

 

 最後の夜はちょうど大晦日で、豪華なシーフードビュッフェでちょっと得した気分。

大晦日の晩のシーフード ビュッフェ
大晦日の晩のシーフード ビュッフェ
同左
同左

■ 島との別れ

最終日のフェリーの時間待ち。帰るのが嫌でブルーになっている。
最終日のフェリーの時間待ち。帰るのが嫌でブルーになっている。

 4泊5日の滞在というと豪華版のようだが、過ぎてしまえばあっという間である。ヘロン島のリゾート施設は3泊からしか予約を受け付けておらず、日本人の感覚では少し意外に思ったが、行ってみるとむしろ当然な気がした。

 私たちが行った時期はオンシーズンなのでほぼ満室だったはずで、凡そ200-300人が宿泊していたと思われる。にもかかわらず、1日1便のフェリーは行きも帰りもガラガラで30人ほどしか乗っていなかった。これを単純計算すると平均で7-10泊していることになる。たまたま偶然だったかもしれないし、ちょうど夏休みを利用してバカンスを楽しむオージーのファミリーが多い時期だったのかもしれない。しかし、いずれにしても、最低3泊と聞いて意外に思った私の感覚が貧困だったと改めて感じた。

 今度生まれ変わる時には、バカンスという概念のある国に生まれたい、などと瞑想にふけりながら、時計のネジが巻き切れて針がぐるぐる回り続けているような、そんな日本へと帰るのだった。

(完)