パンティ・フォレスト探蝶記(2)


■ コタティンギのビール事情

 カールスバーグ。マレーシア現地生産。
カールスバーグ。マレーシア現地生産。

 ホテル事情の次がいきなりビール事情なのには理由(わけ)がある。昼間はジャングルで滝のように汗をかいているので、夜のビールはマストなのだ。そう、飲みたい云々ではなくて、飲まねばならない(←キッパリ!)。

 ところで、日本人の多くは自分たちのことを真面目で規律正しい国民と信じて疑わないが、こと酒に関して日本人ほどゆるい国民はきっといない。欧米では人前で酔っ払うことはマナー違反だというが、私がこれまで旅した東南アジアとオセアニアの各国でも、日本のように町中で酔っ払いを見かけた記憶はない。そもそもオーストラリアやニュージーランドは酒類の販売許可が厳しいらしく、酒類を提供する飲食店が限られる。オージーはビール好きと聞くが、あの巨体に似合わず小さなグラスでチビチビやっている姿を見ると、ジョッキであおるように鯨飲するのは日本人の悪習と思える。中国人といえば古来から酒好きのイメージが強いが、意外と言っては失礼だが中国にも「人前で酔っ払うことは恥」という文化があるという。最近は中国人観光客のマナーの悪さに対して「恥知らずの中国人」的なネット上の書き込みを見かけるが、平気で人前で酔っ払う日本人を見て中国人は何と思っているか一度聞いてみたい。

 さて、ご他聞に漏れずマレーシアも酒類を提供する飲食店は限られる。マレー系の人々は敬虔(けいけん)なイスラム教徒つまりモスリムであり、アルコールは御法度なのだ。しかし、幸いなことにマレーシア経済は華僑が牛耳っていると言われるほど都市部には中国系の人が多いので、町には「○○○○酒楼」なる看板の中国料理店がどこにでもあるので困らない。そう、これまで一度も困った経験はなかった。 

 ところがなぜか今回は事情が違った。泊まったホテル(地図の右上のKota Heritage)周辺はモスリムの店ばかりで、どこにもビールなどという汚らわしいものは置いていない。最初の晩は1時間近くも町をさまよい歩いて、やっと地図左下の美利(ミリー)酒楼にたどり着いた。次の晩も懲りもせず探し回った挙句、とどのつまり美利の隣の新美都(ニュー・ミトゥー)冷気酒楼に納まった。

コタティンギ概念図
コタティンギ概念図

 新美都のはす向かいのホーカースにも中国系の店がたくさんあり、要はこの界隈に集中している。かつては Hotel Seri Kota(國達旅店) を常宿にしていたので、こんなに偏在していることに気づきもしなかった。

かつての常宿 Hotel Seri Kota(國達旅店)
かつての常宿 Hotel Seri Kota(國達旅店)

 だったら初めからセリ・コタに泊まれば問題ないわけだが、右の写真を見て抵抗のない人には是非ここをお勧めする。いわゆる旅社のうちでは上等な部類で、近くに蛍ツアーの船着場があるせいか、ご覧のとおり大型のツアーバスも停まっている。多分1泊2千円ぐらいで泊まれる。ただし、日本から予約するすべはない。

 私たちはかつてここを2回利用し、もう2回はこの近くでさらにボロい Nasha Hotel(ナシャ・ホテル)に泊まった。20年前に泊まれていま泊まれない理由は特にないと思うが、なぜか雅恵は絶対イヤと言っている。

 

■ トラップ用の果物と昼食の調達

 マレーシアでは田舎町といえども必ず早朝から市が立ち、トラップ用のバナナやパイナップルを調達ついでに昼食を仕込むことができた。「できた」と過去形で書いたのは、これまた今回のコタティンギでは事情が変わっていた。かつて市が立っていた場所は様変わりしていて、他にそれらしき場所も見つからない。その代わりにショッピングモールが夜遅くまで営業していて、ホテルの近くのKIPショッピングモールの中の市場で前の晩に果物を調達した。

<KIPショッピングモールの市場にて>

バナナの花。どうやって食べるのだろう。
バナナの花。どうやって食べるのだろう。
こんな青いバナナは普段あまり見かけない。
こんな青いバナナは普段あまり見かけない。

こちらはゴーヤ。
こちらはゴーヤ。
たこ焼きだ!
たこ焼きだ!

ではなくて、カヤボールでした。中にカヤジャムが入っている。
ではなくて、カヤボールでした。中にカヤジャムが入っている。

 マレーシアの人たちの暮らしも、日本と同じでだんだん夜型に変わってきてしまったのだろうか。朝が遅くなることは自然を相手にする場合には誠に不都合で、特に昼食の調達には困る。前の晩から買っておける物といえばパンぐらいしか思い当たらないが、パンは暑いジャングルでは喉を通らない。

 

店先でロティーを焼くミャンマー人の青年。
店先でロティーを焼くミャンマー人の青年。
昼食用のロティー(ジャングルにて)。
昼食用のロティー(ジャングルにて)。

 タクシースタンドの近くでロティーを焼いている店を見つけた。ロティーとは、日本のインド料理店でお馴染みのナンに近いもので、カレーをつけて食べるとなかなかいける。以前は町のあちこちで早朝からロティーを焼く光景を見かけたが、今は少なくなった。ちょうど良いので昼食用にテイクアウトした。店で食べるとカレーの小皿がついてくるが、テイクアウト用にビニール袋に入れてくれた。こういう時のためにフォークやスプーンは常時携行しておくとよい。

 ロティーを焼く様子を動画でアップした。生地を器用に薄く広げておいて、次にこれを折りたたんで焼く。なかなか見事な手さばきの彼はミャンマー人だという。

■ パンティ・フォレストへの足

 コタティンギの町からパンティ・フォレストまでは20kmほどで、タクシーで30分足らずだ。タクシースタンドは上記地図の中ほど、バスターミナルと同じ建物の中に背中合わせになっている。今回のホテルは周りにタクシーがたむろっているようなことはなかったが、仮にいたとしても何となくうさん臭いので使いたくない。タクシースタンドなら必ずその場を仕切っているボスのようなのがいて話が早いし、必ず誰かが行ってくれる。観光地や有名採集地のように外国人慣れしているとふっかけてくるが、さすがにコタティンギではふっかけられることもなく、夕方迎えに来てもらって往復で60リンギ(約1,500円)とかなり安くついた。翌朝からは、時間を指定して同じ運転手にホテルまで迎えに来てもらえばいい。

タクシースタンドはバスターミナルと同じ建物の中。
タクシースタンドはバスターミナルと同じ建物の中。
左手奥がタクシースタンド。
左手奥がタクシースタンド。

■ マレーシアの英語事情

 ところで、今回使ったタクの運転手はろくに英語が話せなくて困った。マレーシアの公用語はかつて英語とマレー語だったが、現在はマレー語だけとなっている(※)。マハティール前首相のルックイースト政策の影響などもあるのだろうか、私がマレーシアに通い始めた30年近く前と比べると、若い人たちがだんだん英語を話せなくなってきていると感じる。少し前から、スーパーや飲食店などの若い店員に英語を話せない人がいることが気になっていたが、タクシーの運転手が話せないのは今回が初めてだった。もっとも、こちらもろくに話せないので偉そうなことは言えないけれど‥。

 

※一部の旅行ガイドや留学サイトなどに見られる「マレーシアの公用語は英語です」という記述は、悪意はなくても明らかな誤りもしくは嘘である。