2005年採集記録


 この記事は、よい子の蟲だより№208(2006年3月20日)および№209(2006年7月18日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。


■ 4月9日(土) 島根のギフ

 今シーズンの開幕は備後と決めていたのだが、直前になって時期的に微妙に早いと判断し、急きょ行き先を島根に変更した。

《三刀屋町三刀屋城址》

 蟲だより№195の黒鯛師さんのマップに、「三刀屋城址から西にのびる尾根」というのがある。「当たれば40コ コース まちがいない」という記述に目が眩んだわけではないが、島根くんだりまで行くにあたって、まずはこのマップを「保険」にさせていただいた。

 件(くだん)の尾根に足を踏み入れると、5万図にも載っている尾根道なのに予想に反して深い林の中の小径で、ところどころブッシュでたち消えそうな状況だった。これではとても多くを望めそうにない。それでも少し進んだところで右手(北側斜面)に伐採地が現れ、これが「当たれば40コ」と言わしめた根拠だろうと納得したが、すでにスギの植林が3m以上に伸びており、1-2年遅かったと思われた。

 こういう場合あきらめが肝心なので、転戦しようと引き返す途中でブルーネットにギフがまとわりつき、島根県産初ゲット。まずはめでたし、めでたし。どなたかは存じませんが、黒鯛師さんに感謝申し上げます。

《木次町西日登》

 次に、最近景気のいい記録が出ている木次町へ。記録のほとんどが♂なので、これはきっと尾根筋に違いない。5万図を見ると西日登の南方に比較的なだらかな山塊があり、稜線付近を高圧線が走っている。これは当たればデカそうだ。

 行ってみると、稜線には格好の尾根道が縦横に走っているのだがギフの気配なし。山の規模が大きいので、麓のどこかで発生していれば尾根道のどこかでヒットしそうなものだが、かなり歩き回ったが現れない。鉄塔から北の方を見下ろすと、印瀬辺りに良さそうな伐採地が見えたのでそちらへ転戦する。

 印瀬神社の少し先まで車で入ることができ、猛烈なヤブ漕ぎで伐採地に潜り込んだが乾燥が激しくて見当はずれだった。神社のすぐ裏に北向きの新しい伐採斜面がバーンとそそり立っていたが、高低差が大きく、体力、時間を考慮してパス。ここを登ってハズすと今日一日がパーになる。

《斐川町阿宮》

 島根県産初ギフは落としたものの、一番期待していた木次町が大コケだったので少々焦る。ここまで来て絶好の天気で1♂だけでは帰れない。時刻はすでに正午を回っている。

 斐川町阿宮はわりと知られたポイントらしいが、詳細は不明。実はここはあまり気がすすまなかったので、後回しにしていた。というのも5万図で見る限りやや単調で凹凸の少ない地形で、いまいちピンとくるものがない。こんな山にいるのならどこにだっていそうな気がしてくる。仕方なく、まずは山の北側へ回り込んでいる道をつめるが、あえなく民家で道が行き止ってしまった。次に、集落記号が山の上の方まで付いているのでどこかに登る道があるはずと探してみると、細い急な坂道が山の上へ向かって伸びている。これを行くと、多少マシな雰囲気の集落(と言っても2-3軒)に出た。

 車を停めて、まずは目に付いた林道へ足を踏み入れると、いきなりギフと出合い頭で振り逃がし。いることが確認できたので、後は血眼(ちまなこ)になって探し回る。ほどなく、農道が林に突き当たって行き止まりになった場所で2♂採集。その後さらに1時間ほど歩き回って、尾根道やら伐採地やら明るい雑木林やら良さそうな場所はいくつも見つかったのだが、結局追加はなし。仕方なく2♂の成果に満足して転戦することにし、最後にもう一度先ほど2♂採集した場所を覗いてみたところ1♂追加。何でこんな所で? 何の変哲もないただのブッシュの縁だけれど、なぜかここだけで採れる。騙されたと思って遅い昼飯を食べながら、ここでもう少し粘ることにした。

 弁当を広げて間もなく1♂追加。食べ終わらないうちにさらに1♂。食べ終わった頃にまたまた1♂。結局2時半まで粘って予想を大幅に超える10♂1♀の成果となったが、その内9♂を、この何の変哲もない林縁の、直径5mほどのピンポイントで採集した。

《木次町熊谷》

 すっかり満足したし、時間は半端だし、だいいちもう疲れたし、後は車で流して次回の下見とする、つもりだった。

 午前中コケた木次町で別な場所を探そうと車を走らせていて「何だ、あれは!」と、思わず急ブレーキを踏んでいた。あまりに美味しそうな尾根に向かって、あまりに美味しそうな小径が付いている。しかも道路から丸見えだ。あまりに安直なシチュエーションに「こんな場所にギフがいたら、誰だって気付くわな」と一瞬思ったが、よく考えたら午前中に通った時はそういえば気付かなかった…。

 車で流すつもりが、気付けばなぜか急な登りを喘ぎ喘ぎ登っていた。さすがにしんどくなって、半分まで登ったところで足が止まった。時刻はもうすぐ3時半。こんな時間から尾根に登って、いったいどうするつもりだ。知らぬ間に「何とかと煙は…」の「何とか」になっていた。いい加減切り上げてゆっくり温泉にでもつかろう。そう思いながら何気に足元に目をやると、カンアオイが生えている! こうなりゃ、とりあえず登るしかないか。

 尾根に出ると、こんな時間にもかかわらずこれがまたなぜかいるのだ、ギフが。ところが「コラッ、いつまで遊んどる。はよ帰らんかい!」てな調子で近付いたため、あっさり逃げられた。2頭目も逃げられた。3頭目はさすがにいなかった。この分なら麓の発生地ポイントならまだいけそうなのに、と思っているところに、うまい具合に谷の方へ下りて行く道があった。これを行くと、約束どおりちゃんとギフが待っていてくれた。今度は慎重にネットした。

◇        ◇

 ちなみに、三刀屋町、木次町は、周辺6町村が合併して雲南市となっていた。

 エッ、雲南? ちょっと待った。雲南と言えば別にウンナンシボリアゲハを持ち出すまでもなく、古今東西、老若男女、右翼も左翼も「中国の雲南省」じゃないでしょうか。想像するに「出雲市の南」からのネーミングと思われるが、「中国地方の雲南市」なだけに余計ややこしい。地元の皆さんはどう思っておられるのか知らないが、私なんかに言わせれば、お釈迦になった「太平洋市」や「南セントレア市」に匹敵するくらい破廉恥に思うのだが如何でしょうか?

 なお、この日の雲南市周辺の桜は「七分咲き」ないしは「満開近し」。ギフはちょうど適期(♀の出始め)だった。

 ところで、名古屋から当地まで500km弱の行程を、この時期仕事が超多忙=超寝不足の私が走破できるはずもなく、今回は往復とも夜行バスを利用した。片道9時間、しかも着いたその日の夜のバスで帰ってくる「両夜行日帰り」などと言うと目茶キツそうだが、やってみるといたって快適で超ラクチンだった。

[記録]4月9日(土) 同行者 なし

島根県雲南市三刀屋町(旧飯石郡三刀屋町)三刀屋城址 ギフ 1♂

島根県雲南市木次町(旧大原郡木次町)西日登 ギフ null

島根県簸川郡斐川町阿宮 ギフ 10♂1♀

島根県雲南市木次町熊谷 ギフ 1♂1♀ 

※この日の詳細については、次にエッセイがあります。

夜行バス利用のスゝメ -島根ギフ採集記-(内部リンク)

 


■ 4月16日(土)・17日(日) 備後地方のギフ

 先週、「備後は微妙に早い」という判断は多分正解だったと思う。だが、今週末の備後はというと、多分すでに遅い。しかし、シーズン前から散々下調べをしたのに、ここで行かないとなると今度行くのが何年先になるか分からない。ここは妥協して、半分は翌年の下見と割り切って行くことにする。

 予想では週半ばの13日(水)頃がピークで、今週末はすでに♀の時期と思われた。結果は、思わぬ成果で2日間で13♂を採集したが、下調べの甲斐あって時期的にも予想がズバリ完璧に的中し、全て3-4日飛び古した感じの個体ばかりだった(自慢になってない)。

 ポイントは、蟲だより№184の オケラのMA-くん のマップを参考にさせていただいた。このうち御調町野呂は「ギフチョウ保護地区」の看板が立っていて、そそくさと退散。福山市上三斗木は採石場が拡張していて、ほとんど神社のすぐ裏手まで山を丸ごと半分削り取っている状態で、ほうほうの体(てい)で退散。しかし、福山市坊原では、この場所では採れなかったものの、ここがヒントになって新たなポイントを発見することに成功。さらに、そのポイントを足がかりにもう1ヶ所ポイントを発見し、この日はこの2か所でそれぞれ3♂、計6♂を仕留め、翌日も同じ場所で7♂を追加した。 オケラのMA-くん ありがとうございました。

 ポイントの詳細については、来年時期をピッタリ当てて完品をガッポリ採ったらマップを書きます。(ホントかな?)

[記録]4月16日(土) 同行者 雅恵

広島県福山市芦田町 ギフ 6♂

4月17日(日) 同行者 雅恵

広島県福山市芦田町 ギフ 7♂(内4♂雅恵)

 


■ 4月29日(金祝)・30日(土) 福島県西会津のギフ

 前夜名古屋を出発し、新潟県内のS.Aで仮眠をとり、早朝目覚めると予報どおりのドン曇り。じきに降りだした雨は磐越道に入った頃には土砂降りになっていた。

《西会津町徳沢》

 雨の中、車であちこち下見をしていたが、昼前に急速に天気が回復に向かったのであわてて徳沢に戻る。ポイントは、蟲だより№181にY岡氏が詳しいマップを載せている。車を降りてから一番奥の第2鉄塔まで30分ちょっと歩く。この間、雨は完全に上がったものの、なかなか晴れそうで晴れない。風が強くて気温も上がらない。それでも第2鉄塔手前の発生地と思われる林は風が当たっていなかったので、ここで少し粘ることにする。

 すでに時刻は1時半。気温は17℃。依然、晴れてこない。さすがに今日はダメだったか。もう少ししたら早めに宿を探して、明日に期待しよう。雅恵にそう告げて気が緩んだ途端、睡魔に襲われてウトウトしかけた。すぐにハッと目を覚ます。いつの間にか薄日が差している。何気なく辺りを見回すと、いたっー! 私のすぐ後ろ3mの所をギフがフラフラしている。御用! 御用! 御用!

 3度目の挑戦でやっと福島ラベルをゲットした。過去2回は91年と93年のGW、2度とも東北遠征の際に西会津まで足を伸ばしたが、ポイントも分からぬまま徳沢や宝坂の周辺をうろついてみたものの、徳沢でカンアオイを見つけたのが精一杯だった。この日はこの後、私が2♂を追加し、他を探しに行って戻ったら、元の場所で雅恵が2♀(いずれも未交尾)を追加していた。

 ◇        ◇

 翌30日は散々迷った挙句に岩井沢へ向かったのだが、土壇場で気が変わって、結局前日と同じ徳沢へ入った。あまりの優柔不断ぶりに雅恵はあきれ顔だが、私の優柔不断は何も今に始まったことではない。そのうえ前夜の宿が遠かったため着いた時には既に3人入っており、ここまで続いてきた今シーズンの好調も、もはやこれまでかと思われた。ところがどうしたことか、3人とも少ないポイントで粘っていて誰一人としてメインポイントへ入ろうとしない。おかげで、後から来たのに美味しいところを一人で全部いただいてしまった。

《西会津岩井沢》

 十分満足したので岩井沢へ転戦。道端にスミレやカタクリが咲き乱れ実に美しい。しかし、少し斜面に入るとすぐに残雪が現れ、雪のない場所も、まだ雪が融けたばかりの様子で草木が地面になで付けになっている。前日、雨の中を下見した際には道路を歩いていたので、林の中にこんなに残雪があるとは気付かなかった。どうやらきわどくフライングのようで、GW中盤の5月3日から5日が狙い目と思われた。

 なお、この両日、西会津I.C付近の桜はちょうど満開。道の駅「にしあいづ」のソフトクリームはとってもミルクリッチで雅恵のお気に入り。

[記録]4月29日(金祝) 同行者 雅恵

福島県耶麻郡西会津町徳沢 ギフ 3♂2♀(内2♀雅恵。2♀とも未交尾)

4月30日(土) 同行者 雅恵

福島県耶麻郡西会津町徳沢 ギフ 12♂1♀(内1♂鳥食われリリース。♀は未交尾)

福島県耶麻郡西会津町岩井沢 ギフ null

 


■ 5月1日(日) 宇奈月温泉のギフ

 宇奈月温泉は観光地としては有名だが、ギフではあまり有名でないように思う。

 さかのぼること17年前の88年4月23日、「88か所」で知られる宇奈月町浦山は数は滅法多かったものの鮮度が悪く、不完全燃焼のため、ポイントも分からないまま何かで記録を見て知っていた宇奈月温泉へ転戦した。首尾よくポイントを見つけ、鮮度の良いギフに迎えられた。しかし、浦山で粘りすぎてすでに時間が遅かったのと、翌日の日曜日は当時付き合い始めたばかりの雅恵とのデート♡の約束があったので早めに帰りたい事情もあり、後ろ髪を引かれる思いでポイントを後にした。何しろ当時は富山から名古屋まで国道41号で帰って来なければならず、そのうえ時速90㎞をを超すとケツを振るポンコツに乗っていた。(当時これを“ダッチロール現象”と勝手に呼んでいた。さらにその車にはエアコンも付いていなかった。いくら当時でもそんな車は“ベリー・レア”だった。)

 なお、このとき採集した9♂1♀の内の1♀は、その後、大阪の成山嘉二氏の手に渡り、氏が作成したギフチョウポスターの中に登場している。

 こうして何かと思い出深い宇奈月温泉であり、素晴らしい景色を眺めながら採集できるポイントなので(眺めてたら採れないって)、いつか雅恵を連れてもう一回行こうと思いつつ17年の歳月が流れた。名古屋からだとわざわざ行くには意外と行きにくい位置にあり、例年だとGW前の発生なので時期的にも行きにくい。今年は1週間遅れているとして、福島からの帰り道のこの日に立ち寄ることにした。

 ところが、朝、上越市のホテルを出るときに雅恵が体調不良を訴えた。初日の車中泊でひいた風邪をここにきてこじらせたようで、熱もある。ギフより雅恵の身体の方が大事なので、このまま帰ろうかと切り出した。

「イヤよ、そんなの。一生言われそうだわ」

 そんな大袈裟な。病気の雅恵を連れて採集に行ったのでは、こっちが一生言われそうだ。少し迷ったが、甘んじてこっちが一生言われることにした(何のこっちゃ)。

 この日の宇奈月温泉周辺は予想以上に季節が進んでおり、桜はとっくに散り果てて新緑が美しい初夏のたたずまいだった。ギフには1週間近く遅いと感じた。仮にいてもポンポロだと思っていたところへ意外に綺麗な♀が現れたため、少しスレていたにもかかわらず、つい押さえてしまった。次にゲットした♂は、尾突が片方欠けているもののなぜか鮮度は良好だった。次に地面の上でゴソゴソやっている交尾個体を見つけて覗き込むと、何と、♀はもちろん♂も完品であった。1週間も遅い景色の中で鮮度の良いギフにめぐり会えた不思議に、今シーズンの強運を感じずにはいられなかった。

[記録]5月1日(日) 同行者 雅恵

富山県下新川郡宇奈月町宇奈月温泉 ギフ 2♂2♀(内1ペア交尾中)

 


■ 5月4日(水祝) 福井県和泉村のギフ

 蟲だより№203のY.Kato氏の「2004年観察記録」の中に

「5月1日(土)福井県和泉村下山 ギフ1♂3♀ スレ-新鮮」

というのがある。これを見た瞬間、私は心の中で「ウソだー!」と叫んでいた。

 実は、ズバリ和泉村下山には親戚がいる。雅恵の父親(つまり私の義父)の実家、要するに雅恵の「福井のおばあちゃんち」があるのだ。結婚当時、和泉村に「田舎」ができたことが嬉しくてたまらない私は、春はギフチョウ、夏は鮎とクワガタ採り、冬はスキーにと、年に何度も何度も和泉村の「おばあちゃんち」へ泊まりで遊びに行った(肝心の雅恵の実家へはろくに寄り付かずに、ひんしゅくを買っていたらしい)。

 しかし、ギフに関しては4度に及ぶ挑戦がことごとく失敗に終わり、次第に和泉村から足が遠のくようになる。当時は「88か所」で紹介された前坂谷に固執しており、後野-前坂-小谷堂と探し歩いたが、結局1頭も採れなかった。当時はまさか下山でギフが採れるとは思ってもみなかった。

 雅恵いわく、「下山でも記録があるって、あなた言ってたわよ。でもどうせ古い記録だし、今は杉が茂りすぎてるからダメだろうって」

 言った当の本人はまるで覚えていない。確かに今「88か所」を読み返すと、この本の中にも下山に記録があると書かれている。にもかかわらず、当時あれほど通った下山で、なぜか私は一切ギフを探そうとしなかった。

 私には子どもの頃の苦い記憶がある。夏のある日、友達が遊びに来てカブトムシを採りに行こうと言う。どこへかと思えば、私の家のすぐ前のお寺の雑木林へだと言う。バカな。こんなに家の近くの、あんなにちっぽけな林にカブトやクワガタがいるわけがない。だいいちその林は、夏の間、私が毎日のようにタモを持って昆虫採集をしている私のメイン・フィールドであった。

 だが、しかし、あろうはずのないことが起きた。いるはずもないと思っていた憧れのノコギリクワガタが、私の家の庭先のような場所で、私の目の前で、友達の手に落ちたのだ。当時、クラスの「昆虫博士」を自認していた私のささやかな自尊心は、無残に傷つけられた…。

 30年以上の歳月を経て、そして過ちは繰り返された。蟲だよりに「和泉村下山」のギフの記録を見つけたとき、言いようのない慙愧(ざんき)の念に襲われた。灯台下暗しということか、遠くのものにばかりに目を奪われて、身近なものに目がいかない性癖が私にはあるらしい‥。

 

 こうなった日には、是が非でも自力で下山のギフを探し出さねばならない。

 この日、予め地形図で目星を付けておいた2か所のうち、現地での見立ての結果、2番目の候補のほうに登ることにする。苦しい登りの末に尾根に辿り着くと、そこにはいともあっけなくギフが飛んでいた! あんなに探した和泉村のギフが、夢想だにしなかったここ下山の尾根に飛んでいる。夢中で駆け寄りネット。

「やった、やった! 和泉村のギフを採ったぞ」

誰もいない山中で、思わず声を出して叫んでいた。すぐに2頭目が飛んできたのもお構いなしに、この日は都合で連れてこられなかった雅恵に夢中でメールしていた。ギフを採ってこんなに嬉しかったのは、多分高校1年で初めてギフを採ったとき以来だろう。

 次々に飛来したギフがひと段落し少し落ち着くと、なぜかしんみりした気分になっていた。これまで恵まれた環境に身を置きながら和泉村に背を向けてきたような気がして、そんな不甲斐ない自分と、数年前に亡くなり葬儀にも行けなかった下山の義理の伯父を始め、お世話になった様々な人への感謝の念が込み上げてきて、新緑薫る快晴の尾根で、ひとりそっと涙を拭いた。

 たかがギフでこんなに人生を語るバカは私だけだろう。だがしかし、これからはしばらく和泉村に通いたいと、素直にそう思った。忘れかけていた和泉村への思いを揺り起こしてくださったY.Kato氏に、感謝。

[記録]5月4日(祝) 同行者 なし

福井県大野郡和泉村下山 ギフ 14♂

 


■ 6月12日(日) 昭和森のクロミドリ

 蟲だより№201及び№204のF.コンチュウスキー氏のマップを見て出かけた。現地着が午後3時30分過ぎだったが、私と同じような採集者が朝から入れ替わり立ち替わり来ていたようだ。

 蟲だよりによれば、F.コンチュウスキー氏は夕方かなり遅めの時間帯にも何度か行っておられるようだ。しかし、この日の私の印象としては、クロミドリは夕方遅くなるにつれ活動が活発になると言うか、ただ単に止まらなくなる。そして当たり前だけれど何しろ「黒い」だけあって、目まぐるしく飛ぶ個体は薄暗くなるにつれて目で追えなくなる。さらに5時ごろからウラナミアカの活動が始まると、これが邪魔くさくて邪魔くさくて、もうイライラが募るばかりだ。結局6時20分まで粘ってはみたものの、最後にネットしたのは4時30分頃だった。

 なお、こうした活動パターンはその日の天候にも大きく左右されると思うが、参考までに、この時の天気は曇りで日差しはなかった。

[記録]6月12日(日) 同行者 なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 クロミドリ 4♂

 


■ 6月18日(土)・19日(日) 伊那谷のキマルリ

 昨年、大阪のN山氏に案内していただいた南信濃村と天龍村のポイント何か所かを2日間探し歩いたが、昨年一番多かった場所で今年も採れただけで新しい収穫はなかった。

 この時期としては珍しく両日とも風が強く、1日目は風の止み間にテリを張ってくれたが、2日目は特に午後から強風が吹き荒れる悪コンディションとなり、ほとんどテリらしいテリは観られなかった。それでもそんな中、現地で会ったN山氏は、

「飛ばへん時は叩かなあかんヨ」

そう言って強風のなかサクラの梢を叩きまわり、3♂を採集された根性と技術はさすがと言うほかない。私も真似して叩いてみたが、1頭飛んだものの、強風に吹き飛ばされてアッと言う間にどこかへ消えてしまった。

[記録]6月18日(土) 同行者 雅恵

長野県下伊那郡南信濃村 キマルリ null

長野県下伊那郡天龍村 キマルリ 7♂(内1♂ボロ、リリース)

6月19日(日) 同行者 雅恵

長野県下伊那郡南信濃村 キマルリ null

長野県下伊那郡天龍村 キマルリ null

 


■ 7月9日(土) 原村のウラキン

 原村のウラキンは最近の私の「お気に入り」に入っていて、今回で4回目。詳しいマップは昨年の報告で書いた。これまでの記録は、

  01年7月7日

28ex.

発生盛期                                                   
  01年7月8日

10ex.

発生盛期  
  02年7月5日  9ex. 発生初期  
  02年7月6日 15ex. 発生初期  
  04年7月3日 10ex. 適期だが少ない。  
  04年7月4日 11ex. 適期だが少ない。  

 初回を除いて、午後半日だけだったり、日中だけで夕方のテリタイムにいなかったりで、丸1日やっていない。今回は久しぶりに丸1日やるつもりで出かけた。

 全国的に雨の予報だったこの日、飛騨と長野だけ予報が良くて、午前10% 午後20%の降水確率。9時過ぎに着いた時点では薄日も差して雨の心配など全くしていなかったのだが、昼過ぎから急に天気が下り坂となった。

 12:30頃、辺りが暗くなってきた時にウラゴが飛びだし、13:00前後にはウラゴとシャクガが盛んに飛んでおり、ウラキンもテリを張るのではないかと期待したが飛ばず。13:30には相当暗くなってきたので、いよいよテリを張るのではと思ったところで、そのまま雨になってしまった。降りだしてからも、もしやテリっているのではと小雨の中を見て回ったがテリは観られず。14:00には雨がひどくなってジ・エンド。結局、今回も半日で終わってしまった。

[記録]7月9日(土) 同行者 なし

長野県原村横見山 ウラキン 13ex.  メスアカ 1♂

 


■ 7月20日(水) 和泉村の夏の蝶

 前編(5月4日の項)で和泉村と私の関わりについて書いた。この日は和泉村の蝶相に触れてみたく、珍しく五目採りに出かけた。比較的自然がよく残されている九頭竜湖の西側一帯を中心に歩いてみることにする。

 予想通りゼフィルス類には少し時期的に遅かったが、夏の蝶全般を狙うにはまずまずの時期だったと思う。今年の北陸地方の梅雨明けは大幅に遅れたが、この日は終日好天に恵まれた。特によく目についたのはミヤマカラスアゲハ、サカハチチョウ、ミドリヒョウモン。伊勢峠近くでは、蚊柱ならぬミドリヒョウモンの“蝶柱”が立つのを観察した。1頭の♀のケツを追って十数頭の♂がもつれ飛び、縦に3mほどの蝶柱を形成していた。

 最後に、この日採集および目撃した全種を掲げておく。

[記録]7月20日(水) 同行者 雅恵

福井県和泉村面谷-米俵-伊勢、大谷

(採集)ミヤマカラスアゲハ 2♂  スジボソヤマキ 3♂  ウスイロオナガ 1ex.  オオミドリシジミ 1♀  ミドリヒョウモン 1♀  オオウラギンスジヒョウモン 1♂  ツマグロヒョウモン 1♀  コムラサキ 1♂  イチモンジチョウ 1♂1♀  サカハチチョウ 1ex.  コキマダラセセリ 1♂  ホソバセセリ 2ex.

(目撃) カラスアゲハ  エゾスジグロシロ?  キチョウ  クロヒカゲ  ルリシジミ  ベニシジミ  トラフシジミ  ウラクロシジミ  ダイセンシジミ  ウラギンシジミ  コミスジ  ミスジチョウ  ルリタテハ  アカタテハ  オオムラサキ  テングチョウ  アサギマダラ  ダイミョウセセリ  ヒメキマダラセセリ?  (以上、31種類)

 


■ 7月24日(日) 霧ヶ峰高原のヒメヒカゲ

 初めに、随分古いが蟲だより№138-144で「春だけ男」氏が紹介していた霧ヶ峰農場のポイントに立ち寄る。見たところ良好な環境にもかかわらず、ヒメヒカゲの姿はない。踏み痕がないことから、さらえたあとではなくて未発生か「マル絶」のいずれかと思われた。

 次に、大山牧場から池のくるみへ向かう途中、ふた昔前にヒメヒカゲを採集した記憶のある斜面を覗いてみる。上部が大規模に別荘地開発されており、その影響か環境の悪化が著しく、かつての草原は松林に化けていた。太鼓判の「マル絶」。

 最後に池のくるみに車を停め、その向こうに広がる広大な草原に足を踏み入れる。この広大な草原のどこかにヒメヒカゲの楽園があると信じて、当てどもなくさまよい歩く。1時間ほど歩いて登山道に戻ったところで、グリーンパトロールから注意を受けた。池のくるみ本体以外での採集は問題ないはずなのでこの点を質すと、昆虫採集には一定の理解を示しながらも、一帯は私有地なので草原内には立ち入らないでほしいと言われてしまった。これには反論の余地なく、道を歩いていたのではヒメヒカゲは採れるはずもないので素直にあきらめて帰った。

[記録]7月24日(日) 同行者 雅恵

長野県諏訪市霧ヶ峰高原 ヒメヒカゲ null  コヒョウモンモドキ 10ex.

 


■ 7月24日(日) 飯田市水晶山の車窓観光

 数年前、高ボッチのヒメヒカゲの帰りに当地に立ち寄った際、飯田I.C付近で激しい夕立にあった記憶がある。クロヒカゲモドキが採れるらしいということで霧ヶ峰の帰りに再度立ち寄ったが、中央道を飯田I.Cまで来たところで、ハンで押したように今回もひどい夕立に見舞われた。しかも今度は雨が上がらず、車で流しただけでメゲて帰った。

[記録]7月24日(日) 同行者 雅恵

長野県飯田市水晶山  クロヒカゲモドキ null

 


■ 7月30日(土) 南島町古和浦のスミナガシ(パート1)

 蟲だより№204のA井氏のマップに興味を抱いた。スミナガシという蝶はこれまで意外に採っていないし、まして1日で20頭も採れ、しかも♀も採れるポイントとなるとどんな場所なのか興味津津である。

 行ってみると、そこはクヌギ林、それも明らかに人工的に植林された比較的若いクヌギ林であった。そして何と、そこに植えられているざっと100本ほどのクヌギ全ての幹に、樹液が出やすいように樹皮を剥ぎ取った痕が付いていた。どうやらカブトやクワガタを採る目的で植林されたクヌギ林と見受けられた。何と大仕掛けなトラップなことか。梅雨明けと同時に夏本番を迎えると100本のクヌギからいっせいに樹液が滴り落ち、辺り一面むせ返るような甘い香りがたちこめ、クワガタやカナブン、スズメバチ、それにゴマダラチョウやスミナガシといった面々がたまらずそこらじゅうから集まってきて、クヌギ林はまさに虫たちの大晩餐会場となる、はずだった。

 が、しかし、残念なことに春先からの少雨とカラ梅雨の影響か、まだ樹液が全く出ておらず、僅かにカナブン数頭とクロコノマ2頭が来ているだけという寂しさだった。

 仕方なく古和浦周辺の谷を何か所か歩いてみた。渓谷沿いには素晴らしい照葉樹林が残されており、薄暗い小径を辿ると下草上にムラサキシジミが極めて多い。マレーシアのジャングルなら50頭採れば20種類くらいいたりして楽しいばかりだが、残念ながらここではいくら採っても1種類だけだ。谷の入り口付近には各所にクサギが多いが、まだ咲きかけ。モンキは普通に見られたがナガサキは少なかった。

[記録]7月30日(土) 同行者 なし

三重県南島町古和浦 スミナガシ null  アオバセセリ 1ex.  サツマシジミ 3♂1♀(内1♂カケ、リリース)  ナガサキアゲハ 1♀(スレ、リリース)

 


■ 8月7日(日) 南島町古和浦のスミナガシ(パート2)

 凝りもせず、先週に続いてまた来てしまった。樹液は先週よりは出ていたが、と言っても相変わらず微量で、少数のカナブンとスズメバチが来ている程度である。やはりカラ梅雨の影響のようだ。こんなこともあろうかと持参したバナナトラップを仕掛けてはみたが、結局ハエ1匹来なかった。

 ところが、こんな状態にもかかわらずスミナガシが1頭、失意の私を慰問するかのようにクヌギにやって来た。が、幹に止まった個体は結構採りづらくて、ご丁寧にも振り逃がしてしまった。ところがふと見ると、なぜかスギの幹にスミナガシが2頭並んで止まっている。なぜスギの幹なのか訳が分からない。2頭とも♂なので求愛行動でもないし(求愛行動だったりして…)、もちろん樹液に来たわけでもない。羽を広げた状態でピクリとも動かずに静止している。しかし、真横に並んで止まっている2頭の間には微妙な間隔があり、これを一振りで仕留めるのは至難の業と思えた。仕方なく1頭に狙いを定め、今度こそは慎重にネットした。

 この後、先週歩いた谷の幾つかを再び歩いた。サツマシジミは明らかに数を増していた。クサギは5-7分咲きとなっていたが、暑いせいかクサギの花を訪れるアゲハ類はむしろ数を減じていた。

[記録]8月7日(日) 同行者 雅恵

三重県南島町古和浦 スミナガシ 1♂  ゴマダラチョウ 3♂  サツマシジミ 9♂1♀(内2♂雅恵。1♂カケ、リリース)

 


■ 12月24日(土)-29日(木)年末年始恒例ランカウイ島(マレーシア)

 遂に10回目を数えたランカウイ島。年末年始のこの時期は完全に乾期のはずなのだが、熱帯地方も地球規模の異常気象の例外ではないらしく、雨期明けが1か月半も遅れ、私が行く直前まで相当量の雨が降り続いていたらしい。幸い私の滞在中は好天に恵まれたものの、蝶の発生はかなり狂っていた。この時期が旬のアロパラ(ムラサキシジミ類)などのシジミはパッとせず、悪天候でも飛ぶセセリやマダラが僅かに多い程度で、全体的に低調だった。

[記録]12月25日(日)-28日(水) 同行者 雅恵

ホソバジャコウアゲハ 1♂1♀  レクタリクイナズマ 2♂  アドゥノラミナミイチモンジ 3♂  シロシジミタテハ*2♂  シリンクスミツオシジミ 1♂1♀  ミツオシジミ*1♂  ウィルデヤナムラサキシジミ 2ex.  プロキシマキララシジミ 1♂  アムリタスソビキシジミ*2♂  ラトイアハリマオセセリ 2ex.  等々、4日間で143頭採集。

(種名の後の*はランカウイ未記録種)