■ 第7位 オーバー・ブッキングの恐怖

 リコンファームにまつわる話をもうひとつ。

 街なかのオフィスへわざわざリコンファームをしに行くことに懲りた私は、到着した時に空港で済ます方法を覚えた。つまり現地の空港に着いたその時に、出発ロビーまで行って、発券カウンターでリコンファームを済ませるのだ。この方法も思ったよりも面倒ではあるが、何と言っても清水の舞台から飛び降りたって英語で電話なんかかけられない、と思っている私には、今のところこれしか方法がない。

 

 帰りのクアラルンプールの空港で、搭乗手続きをしようとしていた時のこと。初めて自分でリコンファームをしていて、だから絶対大丈夫という自信と、でももしかしたらという不安で、微妙な心理状態にあった。

 係の男性がいつまでも端末を叩いている。そして急に、リコンファームはしたかと聞く。ドキン! 確かにやったのでイエスと答えたが、思わず声がうわずった。係員は再び端末をカチャカチャと叩いているが、なかなか見つからないらしい。そのうちに、段々いらいらしてくる様子が手に取るように分かる。こっちも心臓が高鳴ってくる。

 と、突然、係員の態度が急に高圧的になった。もうお手上げだという身振りで何か盛んに言っている。不安が一気に恐怖に変わり、何を言っているのか、もう全然聞き取れない。しかし、それは、

「本当にリコンファームしたのか。名前がないんだよ。ちゃんとやってくれなきゃ、乗れないぜ」

そんなことを言っているに違いなかった。こうなるとこっちも必死だ。ホテルの朝食代の時のように、あっさり引き下がるわけにはいかないのだ。

「着いた時にちゃんとやったんだ。そこのカウンター、そう、そこの発券カウンターでやったんだよ」

そんな意味のことを、パニック状態に陥りながらも、それこそもう必死で英語で訴えた。

 言葉が通じたのか、態度で分かってくれたのか、係員はもう一度端末を叩き始めた。隣の先輩格の職員に尋ねながら、何度も何度も叩いている。ほんの5分だったかもしれないが、途方もなく長い時間のように思えた。

 ふと見ると、2人はにこやかに笑っている。

「何だ、こんなところにあるじゃないか」

「本当だ。全然気付かなかったですよ」

そんなやりとりをしているようだ。そして、まるで何事もなかったかのように、そしらぬ顔で私に搭乗券をくれた。

「バーロー、一言ぐらい謝れよ。見ろよ、涙ぐんでるじゃねーか。俺の縮まった寿命はどうしてくれるんだ」

そんなことを心に中でつぶやきながら、私も何事もなかったようにその場を立ち去った。バーロー。