2020年採集日記(上)

※一部内容を加除修正しました(2020.7.1)。


 今シーズンは4月にベトナム行きの計画が入っていたため、国内採集は実質5月の連休スタートのつもりだった。それが新型コロナウイルスの感染拡大によってベトナム行きはお流れに。急にギフチョウ採集に行こうとするが、下調べが出来ていない。それに緊急事態宣言が出て外出自粛と言っているのに、遠方へ泊まりで行くのはためらわれる。いくら車中泊で人と会わない山の中を歩くだけといっても、こんな時に不審な名古屋ナンバーが林道入口に停まっていたら、それだけで地元の人は神経質になるだろう。石投げられたりして‥。

 そんな訳で、仕方なく、近場のギフのおさらいをしてお茶を濁すことにする。


■ 4月4日(土) 近場のギフ(パート1)

《豊田市浅谷町》

 この日は奥美濃方面へ行きたかったが、ウエザーニュースの予報が北へ行くほど悪かったので愛知県内を選んだ。この時点で私は、今シーズンのギフの発生は平年より1週間から10日も早いと予想していた。この冬は記録的な暖冬で、発生の早い石川や富山の平地のギフは2-3週間も早く3月中旬から出たらしい。根尾の淡墨桜が3月30日に満開という、驚愕のニュースも飛び込んできた。その昔、4月29日に根尾の水鳥谷にスギタニルリシジミを採りに行って、淡墨桜見物の渋滞に巻き込まれてひどい目に遭った記憶がある。それと比べたら実に1か月も早い。

浅谷の発生地のようす(春が浅い)。
浅谷の発生地のようす(春が浅い)。
ヒメカンアオイの新葉は開いている。
ヒメカンアオイの新葉は開いている。

 だからこの日の浅谷(あさがい)は、遅いという心配はしても早いという心配はしていなかった。ところが、ポイントに着くとどうも様子がおかしい。季節が進んでいない。春がまだ浅いのだ。矢作川沿いに車を走らせている間はずっとどこまでも桜が満開だったのに、浅谷の集落で矢作川に背を向けた途端、いきなり桜はチラホラ咲きになった。しかもこの日は朝の冷え込みが厳しく、午前中は気温が上がらなかった。虫が活動している気配は全くなく、ギフはおろかハエ1匹飛ばず。

 そのうえ、カンアオイがあったはずの場所にカンアオイが見つからない。ようやく少し離れた場所で見つけた株は既に新葉が開きかけていて、これだけを見ればギフはすでに発生しているはずだ。状況が全くつかめないままシッポを巻いて退散した。

 

《豊田市御作町》

御作のカンアオイ自生地。
御作のカンアオイ自生地。

 御作(みつくり)は、以前下見でスズカカンアオイの自生を確認している場所。この日、現地に着いてさっそく確認すると、予想どおりスズカカンアオイは新葉がかなり伸びていた。間もなく気温もどんどん上がってミヤマセセリがたくさん飛び始め、すっかり舞台は整った。

 が、しかし、待てど暮らせどギフは現れない。この環境、この季節感、この天気でいないということは‥。うーん、やっぱりいないということか。

《豊田市下川口町》

下川口の高圧鉄塔。
下川口の高圧鉄塔。

 浅谷から御作へ転戦する途中、御作の手前で車を走らせながらチラッと横目で見た鉄塔があまりに魅惑的だったので、吸い寄せられるように戻ってきた。見れば見るほど、ほれぼれするような高圧鉄塔。今ごろあの鉄塔の下で、きっとギフチョウの饗宴が繰り広げられている‥かな?

 ところがどっこい、高圧鉄塔なら保守点検用の小径をたどって簡単に行き着けるはずが、それが行けないのだ。保守用の小径は目の前の田圃の畔を通っているが、その周りを厳重にフェンスが張り巡らされていて中に入れない。仮にもちょっと失礼してフェンスを乗り越えたとしても、向こうに見える丘と田圃の間にはコンクリートの護岸で固められた幅3m深さ2mほどの川が横たわっている。橋が写真の右端に見えているが、橋の前にはこれまた2m近い高さの厳重なフェンスで通せんぼがしてある。何者をも寄せ付けない、難攻不落の城郭のようだ。

 ならば隣の鉄塔から保守用小径をたどろうと試みたが、川を渡れる場所がない。壊れかけのヤバそうな橋を見つけて何とか渡ったものの、そこには保守用小径はなく、ひどい藪漕ぎでやっとこさ隣の高圧鉄塔にたどり着いたところで力尽きた。 

 

《豊田市田茂平町》

 下川口で時間を費したため既に午後2時を過ぎようとしていたが、帰り道でキャラメルの丘に立ち寄る。10年ぶりに丘の小径を登っていくと、相変わらずカンアオイがそこらにいっぱい生えていて少し安心する。すぐ近くまで工業団地が迫っていて風前の灯かとも思っていたが、環境は結構保たれているようだ。ここで何とか1♂を採集し、土壇場でシーズン開幕戦の零封を免れた。

[記録]4月4日(土) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧旭町)浅谷町 ギフ null カンアオイ減少

愛知県豊田市(旧藤岡町)御作町 ギフ null カンアオイ確認

愛知県豊田市(旧藤岡町)下川口町 ギフ null

愛知県豊田市(旧藤岡町)田茂平町 ギフ 1♂ 

 


■ 4月5日(日) 近場のギフ(パート2)

《多治見市大藪町》

大藪町のポイント(2020年4月5日)。
大藪町のポイント(2020年4月5日)。

 翌5日、私はまだ季節を全くつかめないでいた。多治見へ来たのは、平年より1週間ギフの発生が進んでいるという前提である。

 現地に着くと、昨日の浅谷と違って木々の芽吹きはギフの発生前半のそれに思えた。しかし、この日は冷たい北風が吹き抜けていて気温が上がらない。絶対出ているはずなので、いくら低温でも快晴なんだから1つや2つ飛ぶはずと思って11時まで粘ってしまったが、結局飛ばず。

 

《中津川市茄子川》

 このあとの私の行動は、今振り返れば「意味不明」のそしりを免れない。絶対にもう出ていると信じていたので、まずは多治見とほとんど発生の変わらない(むしろ多少遅い)御嵩町へ転戦しようとした。ところが多治見ICから高速に乗った途端に周りの木々の芽吹きが予想以上に進んでいることにおののいて、行き先を急遽、中津川に変更したのだ。自己弁護のため(単なる言い訳とも言う)、さすがに中津川が出ていると本気で思っていたわけではないが、この日は低温のため下見に切り替えるとして、もう間もなく出るであろう中津川の様子を見ておこうと考えた。

ミツバツツジは多くが未開花。
ミツバツツジは多くが未開花。
御岳が美しい。
御岳が美しい。

 9年ぶりに訪れた当地は、道が舗装された以外あまり様子は変わっていなかった。住宅地が近くに迫っているので心配していたが、その点では安心した。

 しかし、思ったより木々は芽吹いておらず、カンアオイは古葉ばかりで新葉は全く出ていない。ミツバツツジさえろくに咲いていなかった。山に雪が少ないと聞いていたが、さすがに御岳は3000m級だけあって真っ白だった(当たり前田のクラッカー)。これだけ時期を外してしまうと、ギフの発生が5日後なのか10日後なのか、はたまた半月後なのか皆目見当がつかない。2-3日後でないことだけは確かだった。

[記録]4月5日(日) 同行者 雅恵

岐阜県多治見市大藪町 ギフ null

岐阜県多治見市北小木町 ギフ null カンアオイ確認

岐阜県中津川市茄子川 カンアオイ確認

 


■ 4月7日(火) 近場のギフ(パート3)

 新型コロナウイルスの感染拡大がいよいよ深刻となり、この日、国は遂に緊急事態宣言を発令した。もともと4月11日からベトナム行きで休暇を5日取るつもりで仕事の段取りを付けていたので、この際、ベトナムへ行ったと思って天気の良い日は有休休暇を取ることにする。家でテレワークならぬ、山でフィールドワークである(はい?)。

 

《多治見市北小木町・大藪町》

地蔵さまの石垣にカンアオイ。
地蔵さまの石垣にカンアオイ。

 思ったほど発生が進んでいないことに薄々気付きながらも、この時点ではまだ十分状況を飲み込んでいなかった。だって桜は各地でもう満開なのだ。ギフが出ていない訳がない。そう信じて再び多治見へとやって来た。

 この日も気温が低めのため、朝のうちは隣の北小木町で下見がてら探索する。2日前にもチラッと通っただけの北小木町で道端で簡単にカンアオイが見つかったが、この日もまた別の場所で簡単に見つかった。簡単もなにも、写真のように地蔵さまの石垣にまで生えているくらいで、なんだかこの付近どこにでも生えているような気がしてきた。

大藪町のポイント(2020年4月7日)。
大藪町のポイント(2020年4月7日)。

 朝のうち道草を食って、午前10時半にお目当ての大藪町のポイントに入る。今日こそはもう絶対に飛んでいると思ったのに、飛んでいない。いつものとおり、いつもの場所に雅恵を待たせ、一人で林道を先に進む。

 午前11時、やっと1♂採集。羽化したての綺麗な個体だった。ようやく出た。これであとは労せずホイホイ、と思いきや、なぜかあとが続かない。

《御嵩町津橋》

 ここで、私は再びつじつまの合わない行動をとった。2日前に、急に気が変わって行かなかった御嵩町へ転戦したのだ。多治見がろくに出ていなければ御嵩はもっと出ていないに決まっている。なのに、「多治見は本当は出ているはず」という呪縛を断ち切れないでいたので、そのことを確かめるため、傍証を得ようと御嵩の様子を見に行った(言い訳になっとらん)。

 林道が入口から荒れているのを気にしながら、少し進んだ所で嫌なものに出会った ―― トラフシジミ。なぜこの蝶が嫌かというと、この蝶は本来なら春たけなわの頃に出るはずなのに、近年、温暖化の進んだ早春の野辺で見かけることがある。もともと亜熱帯系の蝶で温暖化には案外強いらしい。経験的に、この蝶が早春にひょっこり現れた時は、他の蝶は死に絶えたように姿を見せない。

 悪い予感が的中し、かつてのギフチョウ発生地はすっかり荒れ果てた様子でカンアオイも見つからなかった。私がこの地でギフチョウを採集したのは、まだほんの6-7年前のことである。

(過去の記録)

2013年4月 8日(月) 御嵩町津橋 ギフ 1♂1♀

2014年4月12日(土)御嵩町津橋 ギフ 3♂雅恵採集

 

地面に静止するトラフシジミ。
地面に静止するトラフシジミ。
かつてのギフチョウの発生地は‥。
かつてのギフチョウの発生地は‥。

[記録]4月7日(火) 同行者 雅恵

岐阜県多治見市北小木町 ギフ null カンアオイ確認

岐阜県多治見市大藪町 ギフ 1♂

岐阜県御嵩町津橋 カンアオイ一部消滅

 


■ 4月9日(木) 近場のギフ(パート4)

《多治見市大藪町・北小木町》

 日ごろから粘り強さを身上とする私は(「しつこくてねちっこいおやじ」とも言う)、みたび多治見へとやって来た。2日前に採った♂は出始めとして、連日の好天でそろそろドバっと出るころだ。

 それがどうしたことか、待てど暮らせど歩き回れど、ギフは一向に現れない。遂に業を煮やし、多治見を見切って犬山へ転戦しようと車を走らせている時に、道路沿いの開けた空間を旋回するように飛ぶギフチョウを発見! 急停車してネットすると、何と未交尾♀だった。こんな目立つ場所で未交尾♀が舞っている。ということは、裏を返せば正真正銘♂がいないということだ。

「男どもはいったいどこへ行ったのよ。こんないい女がここにいるのに、目に入らないっていうの?!

 ギフチョウがそう言っているような気がした。まさか、ご当地岐阜県では夜の蝶が舞うナイトクラブでクラスターが発生したので、昼の蝶たちも自粛してるってことじゃあるまいに。

新葉だけのスズカカンアオイの株。
新葉だけのスズカカンアオイの株。

 訳の分からぬ冗談はさておき、この日、最初の林道で、さすがに疑問に感じてカンアオイが自生している斜面に足を踏み入れた。そこで見たものとは・・この期に至ってようやく、カンアオイが激減していることに気づいた。先日来、道端でカンアオイを見ていたので油断していたが、もともとそこにあった大きな群落が明らかに縮小していた。スズカカンアオイは肉厚で乾燥に強いのか、大きな古葉がしっかり残っていてよく目立つ。ところが、その古葉が目に見えて少なく、なかには古葉が全くなくて新葉だけ開いている写真のような株もあった。このような株はヒメカンアオイでは普通だが、私の乏しい経験からはスズカではあまり見ないように思う。常緑のカンアオイが古葉を落とさざるを得ない厳しい環境変化とは ―― 温暖化が年々進んで、いよいよこの地のカンアオイも夏越しが厳しくなってきたということではないだろうか。少し前から西濃地方で起きていたことが、この地域にもいよいよ広がってきた可能性がある。

 

《可児市塩河》

 犬山へ転戦する途中で車を停めた。スズカカンアオイが自生していることを以前確認している場所だが、まだここでギフを採ったことはない。この日、カンアオイの自生地に足を踏み入れると、2か所のうち1か所は健在だったが、もう一方はやはりここも激減というかほぼ消滅していた。

 

《犬山市今井》

 最後に既知産地の犬山市今井にやって来た。今さらよく知る場所に来たのは、時期を確かめるためである。私の理解では、平年で犬山市今井は4月8-9日、多治見市大藪町は11-12日頃の発生。目と鼻の先なのに3日もズレがあるのは、今井のほうが濃尾平野に近いこと、多少標高が低いこと、ヒメカン食いであること(大藪町は発芽の遅いスズカ食い)によってこれぐらいは差がある。

 今井の様子を見に行こうと思い立ってから道草を食いすぎて、着いたのが午後1時だった。尾根ポイントなので時間的に遅いと思ったが、それでも5♂採集できて他にも3頭ほど見かけたので、そこそこ出ていた。5♂のうち2♂に微妙なカケがあるもののすべて新鮮。ということは、発生は全く平年並みということだ。少なくとも、それまで私が思っていたように発生が早いことは全くなく、むしろ微妙に遅れているくらいの印象だった。これでようやく呪縛が解けて吹っ切れた。

 私は毎年春になると、積算気温を用いて季節の進行を把握し、これに桜の開花状況を加味してギフの発生を予想している。この方法で名古屋近郊のギフはかなり正確に発生時期を予想できるが、この方法が全く役に立たなかった年がある。2016年だ。この年は記録的な暖冬で桜の開花が早かったが、暖地では冬が寒くないため花芽が休眠から目覚めず逆に開花が遅れ、結果的にいわば全国一斉に桜が咲いた。 桜は一斉に咲いても、ギフは一斉に出るわけではない。つまるところ、桜の開花状況がギフの発生予想に使えなかった。

 今年の暖冬は2016年以上で、特に積雪の少なさはさらに際立っていた。このままだと飛騨の低地は4月10日、福井の九頭竜は4月15日に出てしまう。ということは私がベトナムへ行っている間にあらかたギフのシーズンは終わってしまう。そんなことを本気で心配するほどだった。そして桜の開花情報を見ていると、あの「全国一斉開花」の悪夢が繰り返されようとしていた。

 そうだ、今年は積算気温や桜の開花情報を当てにせず、2016年の記録を参考にしよう。そう思ったことがつまづきの元で、ここからどんどん迷路に迷い込んだ。

 2016年4月9日 多治見市大藪町 10♂

 たまたま手元にあったこのデータが、いつの間にか私の中で基準となっていた。私の「ギフチョウ採集10か条」の第1条は「これから出る場所を攻めろ」なので、つい早め早めに立ち回ってフライングを繰り返した。

 この日の犬山市今井の結果からようやく冷静さを取り戻し、改めて今年の名古屋の気温を見てみると、

1月:記録的暖冬

2月:普通に暖冬

3月:ちょっとだけ暖冬

4月:平年並みかやや寒い

 こんな感じでどんどん右肩下がりになっていた。人間は過去を引きずっているし桜もそうだが、ギフチョウは現状を的確に把握し、あたかも先を見据えて行動しているようにさえ思えた。

[記録]4月9日(木) 同行者 なし

岐阜県多治見市北小木町 カンアオイ確認

岐阜県多治見市大藪町 ギフ 1♀(未交尾) カンアオイ減少

岐阜県可児市塩河 カンアオイ一部消滅

愛知県犬山市今井 ギフ 5♂

 


■ 4月10日(金) 近場のギフ(パート5)

《犬山市滝ヶ洞・西山》

滝ヶ洞のカンアオイ自生地。
滝ヶ洞のカンアオイ自生地。

 この日は晴れるもののやや低温で、北風がかなり強い予報なので多くは望めそうにない。そこで、半分は下見のつもりで新規ポイントの開拓を目指す。

 滝ヶ洞の小川沿いとすぐ横の尾根の小径をたどる。小川沿いは写真のとおりミツバツツジの咲く明るい林で、期待どおりカンアオイが自生していたがギフは現れず。昼ごろにもう一度立ち寄ったが、やはりダメだった。

 尾根の小径はほとんど立ち消えていて薮漕ぎ状態。そのうえ冷たい風が吹き抜けていたので絶対ムリに思えたが、たった1頭だけ現れたギフチョウが、女神さまよろしくわざわざ私の足元の陽だまりに舞い降りてくれた。

 帰路は東海自然歩道を利用して鞍馬山教会方面へ抜けた。途中のピークで1♂を得たのと、下った所でカンアオイ自生地を見つけたが、いずれもやや期待薄と思われた。

 西山は、40年も昔の若かりし日に、カンアオイの大群落とギフの無数の卵塊を見つけて狂喜した場所だが、今では環境が著しく悪化してしまっている。カンアオイは幹線道路沿いにも生えているぐらいで意外に残っているので、近くにもっと良い場所はないかと探したが見つからなかった。

 

《犬山市今井》

ミツバツツジで吸蜜中のギフチョウ。
ミツバツツジで吸蜜中のギフチョウ。

 午前中の滝ヶ洞の2か所で1♂ずつを採集したが、これをどう評価したら良いのか。つまり、それぞれ1頭しかいなかったのだからやっぱり期待薄なのか、やや低温・強風下でもいたんだからコンディションさえ良ければ大いに期待して良いのか。

 そこで、昨日5♂採集して、いると分かっている今井へのこのこやって来た。もう午後2時で案の定冷たい風が吹き抜けていたが、それでも少し風が当たらない場所で、1頭だけミツバツツジで吸蜜していた。

[記録]4月10日(金) 同行者 雅恵

愛知県犬山市滝ヶ洞 ギフ 2♂ 

愛知県犬山市今井 ギフ 1♂撮影

 


■ 4月11日(土) 近場のギフ(パート6)

《豊田市道慈》

 明智町へ向かう前に、以前採集したことのある旧小原村の道慈小学校裏のポイントに立ち寄る。相当久しぶりなので現地に着いてもすぐには記憶が蘇らなかったが、要はすっかり様子が変わっていた。道路が拡幅されて見る影もない。それでも道端にカンアオイがへばりつくように生えていたが、ギフチョウが生き残っているような気はしなかった。

 

《明智町下阿妻》

ギフチョウが上がってくる尾根。
ギフチョウが上がってくる尾根。

 道慈で時間を使いすぎて、下阿妻に着いた時には午前11時を大きく回っていた。ここもいつ以来か思い出せないほど久しぶりだが、まずまず環境が残っていた。朝から4組4人が入っていたようで、ちょうど3人が次々帰っていかれたのと入れ替わりでポイントに入った。 

 帰っていかれたうちの2人と会話を交わしたが、あまりパッとしなかったらしい。飛ばないので他へ転戦されたと思うが、私が入った直後に運よく立て続けに3♀が飛んだ。すべて当日羽化したばかりの新鮮な個体で交尾済みである。ということは、さっきまで交尾していて交尾が解けたばかりの可能性が高い。ということは、まだ♂がそこらにいるはずだ。というわけで、昼過ぎから尾根に登ったところ首尾よく2♂を追加できた。この日は後から来たというのに何だか上手く行き過ぎたような。

白昼堂々、林道を歩くアナグマ。
白昼堂々、林道を歩くアナグマ。

 私が尾根へ上がっているあいだ、寒いからと車で待っていた雅恵の前にアナグマがひょっこり姿を現した。夜行性のはずのアナグマが、白昼堂々、林道の真ん中を歩いていたらしい。雅恵が動画を撮るためにタブレットを取り出そうとゴソゴソやっているうちに逃げ出して、かろうじて少しだけ撮れた。最後はうちの車の下に潜り込んで、反対側の茂みへと姿を消したという。寝ぼけて昼間徘徊しているところを見られてしまって、アナグマだけに「穴があったら入りたかった」がなかったので、掘っていては間に合わないので、わざわざ雅恵がいるほうへ逃げて穴の代わりに車の下に潜り込んだということか。

[記録]4月11日(土) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧小原村)道慈 ギフ null カンアオイ確認

岐阜県明智町下阿妻 ギフ 2♂3♀ 

 


■ 4月15日(水) 近場のギフ(パート7)

《中津川市茄子川》

ポイント近くの民家のシダレザクラ。
ポイント近くの民家のシダレザクラ。

 4月5日に下見した茄子川(なすびがわ)に、10日後のこの日にやって来た。朝の冷え込みがややきつかったので他へ下見に行っていたら、良さそうな場所を見つけてつい深入りしてしまい、茄子川のポイント着が10時近かった。良く晴れているし、近くの民家のシダレザクラも満開で時期も良さそうで、出遅れたと思い一瞬焦る。

 当然もう飛んでいると思ったのに、飛んでいない。少し待っても飛ばない。今日もまたか、と思いかけたその時、視界の片隅に動くものを感じて凝視するが何もいない。なんだ落ち葉か。と思った次の瞬間、地面を這うように飛ぶギフを発見! どうやらそこのヒノキの梢で寝ていた個体が、ようやく目覚めてスッと地面に降りたところだった。すぐにもう1頭が目の前に現れて、立て続けに2♂採集。飛び始めが遅くて10時10分頃だった。

 そこに採集者の車がやって来た。

「恵那のポイントに入ってたんですけど、全然飛ばなくて。こんなこと今までなくて、どうしちゃったのかと思って」

「朝冷え込んでたから飛び始めが遅いだけです。ここも今やっと飛んだところです」

私のせっかちは筋金入りだが、この私よりももっとせっかちな人がいたのには驚いたというか笑ってしまった(失礼!)。

 

《中津川市千旦林》

 午前中あんなに天気が良かったのに、正午きっかりに日が陰ったと思ったら、どんどん雲が広がって日差しが戻らない。もともと気温がそんなに高くないので、まだゴールデンアワーのうちなのに、少し曇っただけでいきなりジ・エンドのようだ。

林道と沢が出会うポイント。
林道と沢が出会うポイント。

 仕方なく下見に切り替えて、朝がた下見を途中で切り上げた千旦林(せんたんばやし)へ戻る。千旦林と茄子川とはそんなに離れていないし標高的にも変わらないが、明らかに季節感に違いがあった。地形図をよく見ると、千旦林は斜面が北向きなのに対して茄子川はわずかに北西を向いている。その分、茄子川のほうが午後の日差しを強く受けて木々の芽吹きが早いのだ。今年は4月に入ってから季節の歩みがのろいので、地形上の微々たる違いが目に見える形で季節の差となって現れていた。

 これなら今週末でも間に合いそうだ。今朝見つけた場所の他にも、もう1か所楽しみな場所を見つけた。林道が小さな沢とぶつかる場所で、写真の左奥の沢沿いにカンアオイがある。ここは絶対当たり!そう確信した。

[記録]4月15日(水) 同行者 なし

岐阜県中津川市茄子川 ギフ 8♂

岐阜県中津川市千旦林(2か所) カンアオイ確認

 


■ 4月19日(日) 近場のギフ(パート8)

《中津川市千旦林》

新葉を開くヒメカンアオイ。
新葉を開くヒメカンアオイ。

 この日は4日前に見つけた千旦林のカンアオイ自生地2か所を調査する予定で、まずは1か所目。到着して車を停めようとしている時に、飛んでいるギフに雅恵が気づいて教えてくれた。このところ低温続きで朝の飛び始めが遅いので、こういう快調な滑り出しは今シーズン初だった。明るい雑木林に足を踏み入れると、4日前とは比べ物にならないほどカンアオイが増えていた。新葉が伸びたのだ。ギフチョウと同じで、カンアオイも短期間に一気に出ることを改めて認識した。

 千旦林のもう1か所「林道と沢が出会うポイント」は、林がやや深いため意外に肌寒く感じられ、実際カンアオイもほとんど新葉が出ていなかった。目と鼻の先でこれほどまでに季節感に差があることに驚き、少しいただけでパス。

《中津川市手賀野》

 次に、同じく目と鼻の先だが、地形図で目星をつけてあった手賀野へ行く。目的地に着く直前に良さそうな場所が目に入ったので車を停めると、いきなり2頭がもつれ飛んでいる。しかし、そのあとがもう一つで数が上がらない。全体がなだらかな傾斜地でこれといったキャッチングポイントがなく、道端でもカンアオイが見つかる反面まとまって生えている場所がない。明るい自然林もあるがヒノキの植林が多くて自然林を分断している。環境的に良好とは言い難いが、それでも2時間近く粘ってパラパラと6♂採集できた。

 

《中津川市茄子川》

 最後に、4日前に8♂採っている茄子川にしつこく舞い戻る。そろそろ♀が出る時期とにらんで午後1時半頃に明るい林内に踏み入ったが、採集した3頭がいずれも当日羽化と思われる新鮮な♂だった。出始めの♀を狙うのなら、正午前後の交尾が解けたころを狙うべきだったと反省するとともに、このところの低温のため、4日経ってもまだ♂の羽化がダラダラ続いていることに少し驚いた。

明るい雑木林(茄子川のポイント)。
明るい雑木林(茄子川のポイント)。

[記録]4月19日(日) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市千旦林 ギフ 5

岐阜県中津川市手賀野 ギフ 6

岐阜県中津川市茄子川 ギフ 3♂(内1♂雅恵採集)

 


■ 4月25日(土) 近場のギフ(パート9)

《中津川市千旦林》

恵那の笠置山。
恵那の笠置山。

 今日も朝から快晴。でも相変わらず朝は低温なので、しつこく新規ポイント開拓のためにまだ調べていない林道に入る。地形図やGoogleマップの衛星写真を見る限りでは有望と思えた林道だが、実際行ってみるとほとんどがヒノキの植林で望み薄。振り返ると恵那の笠置山の艶姿が目に入った。あの山頂付近には孤立したブナ林がある。

 少し道草を食ったが、このあと、4月15日に最初に見つけて以来三度目となる「林道が沢と出会うポイント」にやって来た。本日の本命ポイントである。時間は午前9時50分。ここに雅恵を残して私は周囲へ探索に行く。天気はバッチリだが相変わらず少し低温なので、雅恵には「10時過ぎから10時半までの間には飛ぶから」と、まだ採ったこともない場所なのに自信満々言い残してその場を離れる。

 このあとコンタクトレンズの不調でいったん車へ戻った時に雅恵に聞くと、2♂採ったという。やっぱりいたか。それも最初のは10時10分に来たという。スゴイ! 私の言ったとおりになった。とはいえ2桁は軽いと思っていたこの場所も、林が深いために低温気味の時には発生も活動もいまいちのようで、思ったほど数は出なかった。

 

《中津川市手賀野》

廃道に沿ってギフチョウがやって来る。
廃道に沿ってギフチョウがやって来る。

 雅恵を「林道が沢と出会うポイント」に待たせている間、私は手賀野周辺の林内を歩き回っていた。雅恵のいる場所は人が来る心配はほとんどないが、この周辺は民家が近いため、道を歩くとすぐに車や地元の人と出くわしてしまう可能性がある。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、県境をまたぐ移動と人との接触を極力避けるようにとのことなので、県境を越えている後ろめたさから、車は林道の奥深くに停めたうえで、人と絶対会わないよう道へは出ないよう配慮した。

 林内は低温気味のため、ギフの多くはスポット状に日の当たる場所で地面に静止していて、飛んでいるものは少なかった。だからどうしても歩き回る必要があり、その結果、林内のいたる所にカンアオイが自生していることを確認できた。少し窪んだ地形や水の流れの周辺はもちろん、何でもない平坦な緩斜面にもカンアオイは散見された。きっとヒノキの植林が進む前は、この付近一帯はギフチョウの一大生息地だったに違いない。

[記録]4月25日(土) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市千旦林 ギフ 8♂(内7♂雅恵採集)

岐阜県中津川市手賀野 ギフ 11♂2♀